民間人の防衛大臣起用は文民統制となんの関係もないのに（記事題を訂正しました）

時間がないので手短に。

野田総理が防衛大臣に起用した森本敏氏は元自衛官で、「新しい日本をつくる国民会議」（21世紀臨調）所属、集団的自衛権行使容認で、たかじんの番組にもゲスト出演していた筋金入りのタカ派です。
（もっとも野田内閣の防衛大臣としては集団的自衛権は行使できないという従前の政府解釈に従うそうです）

まるで自民党内閣の人事みたいですね。
消費税増税と原発再稼働に異様な執念を燃やす野田政権は、政権後退前の自公政権と寸分違わぬかそれ以上の自公路線を突っ走っているまっ最中、この最低人事もさもありなんです。
また一つ、野田最低政権に×が一つ増えることになりました。

ところで自民党はこの人事には賛同するかと思いきや、意外にも「文民統制に反するのではないか」というクレームをつけました。
自民党もたまにはまともな批判をするではないかと思ったら、やっぱりそこは自民党クオリティ（そして民主党クオリティ）だったというのが今回のツッコミです。

（東京新聞より）

同党が問題視するのは、森本氏は選挙で国民の信任を得ていない点だ。文民の政治家による軍隊の統制を意味する「シビリアンコントロール（文民統制）」の原則に照らして疑問がある
石破茂元防衛相は「どんなに優秀であろうと、軍事的な出来事に責任を負えるのは選挙の洗礼を受けた政治家だけ。禁じ手だ」と批判。茂木敏充政調会長も「民間人の起用に疑義があるのではないか」と強調した。

これには思いっきりコケてしまいました。

文民統制について憲法は66条二項で「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。」と規定していますが、この文民とは「選挙で信任を得ている国会議員」という意味ではありません。
文民とは「軍人でない者」（非軍人）を意味します。
そして「文民統制」とは軍の政治支配を防止するため、政府の首長は文民でなければならず、軍はその統制の下にあること、即ち文民の軍人に対する優位を指します。

日本では「軍」は無いため厳密に言えば軍人は存在せず全て文民である、ということになるはずですが、実際には自衛隊は軍隊的組織なので、自衛官は「文民」ではないと解されています。
そして現役の自衛官のみならず元自衛官も文民ではないと解すべきかどうかについて憲法上解釈が分かれているのです。

従って、森本氏が民間人であることは文民統制と関係ありません。
自民党が森本氏の起用は文民統制上問題ではないかと疑問を呈したいのなら、森本氏が民間人だから、ではなく元自衛官だから文民統制上問題ではないか、と言うべきなのです。

これに対し民主党も

　藤村修官房長官は四日夜の記者会見で「文民統制については憲法上、首相と閣僚の過半数は国会議員の中から選ぶ、とされているのみで、防衛相に民間人を起用することになんら問題はない」と説明

とのことですからやれやれ、自民党クオリティと五十歩百歩。
いやはや、我が国は与党も野党第一党も「文民」とはなにかについて正確に理解していないとは・・・そしてマスコミもそこをつっこまないとは・・・この国はいかに憲法をなおざりにしているか、空恐ろしい気分になります。


ちなみに国務大臣はその過半数が国会議員から選ばれていれば何の問題もありません（憲法68条一項）
従って森本氏が民間人であること自体は何の問題点もないことを補足しておきます。