袴田事件も再審開始が注目されていますが、本日は名張毒葡萄酒事件の再審の行方が決まる日です。
速やかに再審開始が確定し、50年近い奥西さんの苦しみにピリオドが打たれることを祈って、伊藤和子弁護士のブログから二つ記事を引用させていただきます。
◆人権は国境を越えて-弁護士伊藤和子のダイアリー
2012年5月24日 (木)
名張事件 このあまりの不正義・人権侵害を司法は救わなければならない。
http://worldhumanrights.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-ece1.html
25日は奥西勝死刑囚について名古屋高裁の決定が出される。
奥西死刑囚はそもそも第一審で無罪判決を得た。自白も全く信用できず、客観証拠に乏しい、という判断、1960年代のことだ。
それが、名古屋高裁で覆された。その判断の根拠は極度なまでの自白偏重、そして、後に完全な誤りであることが明らかになったえせ「科学証拠」によってである。
奥西氏と犯罪を結びつける王冠の歯型鑑定、ぶどう酒の王冠についていた傷が奥西死刑囚の歯型と一致した、という鑑定は倍率をごまかしたインチキであったことが明らかになったのだ。
こうした鑑定の誤りを示しても、裁判所は最新の扉を開かなかった。
その後、私たちは血のにじむような努力をしてさらに新証拠を提出する。そもそも毒殺に使用した毒物が全く違うものであるということが明らかにされたのだ。
この新証拠は実に、再審を申し立てた2002年、実は10年も前に提出されている。そして、この証拠が有罪判決を覆すものとして明白性を認められ、2005年に再審開始決定が出された。
ところがそれを再び名古屋高裁が「自白偏重」と科学を全く理解しない不当判断によってくつがえした。私たちは最高裁に特別抗告し、最高裁は再び名古屋高裁に事件を差し戻して、今に至ったのだ。
奥西死刑囚には事実上二度の無罪判決が出ている。同じ死刑制度を持つ米国でもひとたび無罪となった人を死刑にするような途方もないことはありえない。
ところが日本は検察官が無罪判決に際限なく上訴できる。二度の無罪判決を事実上受けながら、奥西氏は、50年以上罪に問われつづけ、40年以上死刑囚として行き、86歳になった。
本当になんという残酷なことであろうか。司法の権威を守るために、一人の人の人生をここまで翻弄し、犠牲にしてよいのか。
このあまりの不正義・人権侵害を司法は今こそ救わなければならない。司法(Justice)の名において。
これまで司法は99.9%の有罪率にあぐらをかいて、無実を叫ぶ人が何を言おうとえん罪を漫然と生みつづければよかった。彼らが最終決定者なのだから。
しかし、今科学証拠が発達し、裁判官の誤った裁判は、鏡のようにてらされて、明らかにされていく。足利事件、そして、袴田事件。ようやくDNA鑑定によるいわば「無実の証明」によって、司法がいかに取り返しのつかないことをしたかが明らかになっているのだ。
しかし、DNA鑑定は被告人側が悪魔の証明(絶対できない証明の意味)と言われる「無罪の証明」をするものであり、裁判所は無罪の動かぬ証拠をつきつけられて不承不承無罪を認める。
無罪の証明があるときだけしぶしぶ再審を認める、そんなことでよいのであれば、誰でもできる、裁判官の役割などないに等しい。
裁判の役割は、無罪の発見にあり、刑事裁判の鉄則である「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従って、被告人が長い苦しみの後に無罪の動かぬ証拠をつきつけたり、それがかなわずに獄死したりする前に、誤った裁判を認め、えん罪から救うことにある。
足利事件の様に、無罪の動かぬ証拠を突きつけられない限り、再審無罪をしないというのでは、正義を実現し、適正な判断を行う裁判所の役割を果たすことはできないのだ。
名張事件においては、今こそが司法が役割を果たすべき時である。今救わなければ、それは遅すぎる。いまも、あまりにも遅きに失したことは間違いない。
しかし、86歳の奥西氏を、今救えなければ、遅すぎることは明らかである。
もしこれを救えないのであれば、日本の刑事司法は何の役にも立たない、ひたすら有害で絶望的なものであるということになる。無罪の証明がない限り再審はしませんという、素人以下の機能しか果たさない機関であることを内外に示すことになるのだ。
そのようなことにさせてはならない。既に、科学鑑定の信用性は証明されており、再び適当な言い逃れで、再審の扉を閉ざすようなことがあってはならない。
そのような結論にならないはずであると、裁判官の良心に私は期待する。
2010年4月18日 (日)
スペインで名張事件について報告
http://worldhumanrights.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-88b8.html
4月5日から10日まで、EU議長国であるスペインに冤罪名張事件に関する報告をしにいってきました。その様子は、今日まで三回ほど、中日・東京新聞に記事を掲載していただいています。
4月5日といえば、名張事件の最高裁決定が出た日。私たち弁護団が郵送された決定をあけたのは6日ですが、決定は予告なく出されたので、青天の霹靂、まったく知らずにスペインに行って、到着の翌朝に知った! ということでした。
スペインでは、アムネスティ・インターナショナルが、世界でもっとも危機にひんする人権状況にある人、として10のケースを取り上げてキャンペーンをしているのですが、なんとその10のケースのうちの1つが名張事件、ということで、10のケースを紹介するきれいなパンフレットができていて、さまざまなところに配布されていました。
スペインがEU議長国になったのにあわせて、今年の1月からこのキャンペーンを展開しているとのこと。スペインにはアムネスティ・インターナショナルの会員が60万人いる、ということで、大変影響力が大きいので、多くの人が名張事件について知っていて、私はそのことに驚きました。
マドリードもそうですが、私が講演に訪れた町、オビエドでも名張事件について活動したり署名を集めてスペインの大使に届ける運動が展開されていたのです。
スペインは、フランコ独裁があった後、死刑を廃止し、ヨーロッパの主流に倣って死刑廃止国なわけですが、特に死刑廃止について強い関心とイニシアティブを発揮していました。
まず、日本に死刑制度があること自体が信じられない、というところから彼らの理解は始まりますが、奥西勝死刑囚が35歳のときに逮捕され、いったん無罪になったのに、49年を経て未だに死刑囚であり、41年間死刑の恐怖と隣り合わせに生き、無実を叫び続けている、そして現在84歳になってしまった、ということが、文明国でありながら日本でどうしてこんなむごいことが行われているのか、ということで関心を集めているようでした。
そのようなわけで、私に対しては興味深々というところだったようで、初日から様々な取材を受け、記者会見にも多くのメディアが集まってくれました。
みなさん事件の概要は知っていても、くわしいことはしらなかったため、私が事件の経過を話すと「ひどいことがあったものだ」と一様に驚いていました。そのポイントは、
○35歳だった奥西さんが49年たっても、死刑囚のままでいること
○一審が無罪だったのに逆転死刑となって死刑囚でいること(欧米の多くの国では一審無罪の場合、被告人に不利益な不服申し立ては許されないので、それで終わりなのです)
○逆転死刑判決の決め手になったのは、科学証拠のでっちあげだったということ。
○科学証拠のでっちあげがその後わかっても、裁判のやり直しがされなかったこと。
○ そして、白ワインに混入された農薬が赤着色されていた、ということがその後の調査で判明し、ワインを飲んだ女性の誰ひとりとして白ワインが変色しているといわなかったのに、裁判所がこのことは有罪に何ら疑問を抱かせないと言っていること(ワインの国のせいか、みんな一様に苦笑い)
○再審段階でも検察側が被告人に有利な証拠を含むすべての証拠を弁護側に開示しないこと。いくら執行や獄中死の危機に瀕した死刑囚が、自分に有利な証拠の開示を求めても、検察側はこれを公開しないでも許される、つまり無罪証拠を握りつぶしたまま死刑執行まで持ち込める、ということ(このこと、みなさん大変怒っていました)
○日本の有罪率が99%で、そのほとんどが自白に依拠していること。そのことについて国連が憂慮を示しているのに、改善されていないこと。奥西氏の再審開始取り消しも、科学証拠を無視して「自白しているから犯人」という愚かな理由が中心だったこと
○第七次再審で開始決定が出たのに、それが再び取り消されて、死刑囚のままでいること、つまり二度無罪が出たに等しいのに未だに死刑の恐怖と隣合わせでいること。そして、最高裁が最近よい決定を出したけれど、それは差し戻しということで、また高裁で審理が続くが、これだけ長期化して84歳になってしまった死刑囚に、司法が即時の救済をしないでいること
など。
なんと不条理なんだ、こんなことがあってよいのか、という声が多く、「異常なケース」と表現されていました。私もこの不条理な現実に日々怒りを抱いていますけれど、国際的にみて、初めてこのケースを知る人にとって、特に証拠開示が充実し、検察官の無罪判決に対する不服申し立てが許されず、かつ死刑を廃止した、という国際スタンダードの人権を当たり前のものとしている国の人々の視点にたってみたとき、なんということを日本はいまだにしているのだ、という彼らの驚きを自分も身をもって体験しました。
私はその後、死刑問題大使にあい、また国会議員にもあい、充実したミーティングをすることができました。政府関係のみなさんからは、スペインがEUの任期中に日本の死刑問題について取り上げるのはもちろんであり、なかでも名張事件について象徴的なケースであり、かつ一刻も早く人権救済すべき事案として介入したい、という発言をいただきました。
アムネスティのこの「危機にさらされた10のケース」はすなわち、EUがすぐに対処すべき10のケース、ということなのですが、7月以降にベルギーが議長国になった後も引き続きキャンペーンが展開されるとのことでした。
こうした世論を日本の司法はどう受けとめるのでしょうか。一日も早い奥西氏の人権救済がなされるよう、今後も強く働き掛けていきたいと思います。
名張毒葡萄酒事件に関する過去記事
●(2006/12/27)【過去記事】失望させる再審開始の取り消し
http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-2.html●名張毒ぶどう酒事件・4夜連続特番その1~証言~(1987年作)
http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-604.html●名張毒ぶどう酒事件・4夜連続特番その2~重い扉~(2006年放送)後編
http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-621.html●名張毒ぶどう酒事件・4夜連続特番その3~黒と白~(2008年放送)
http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-622.html●名張毒ぶどう酒事件・4夜連続特番その4(ラスト)~毒とひまわり~(2010年放送)
http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-620.htmlなお、冤罪防止のためには、
・マスコミの印象報道を無くす
・人質司法をなくす。代用監獄の禁止
・取り調べ期間の短縮
・取調の可視化
任意同行の録音録画も禁止してはならない。
(ここで怖い思いをして警察の誘導に逆らえなくなることもあるため。また任意と言いつつ、実際は自由にトイレに行かせてもらえなかったり、長時間拘束されて自宅に帰して貰えなかったりすることがある)
・検察に証拠開示を義務づけ、弁護人が閲覧、謄写できるようにする制度を設ける
・被疑者、被告人が再鑑定を早期に受けられる権利を立法化する
・無罪判決や再審開始決定に対し、検察は異議申し立てできないようにする
等々、
被告人の権利を強化させることが不可欠であることもあわせて強調しておきたいと思います。
(余談ですが、これらの所謂「加害者の人権」が「被害者や被害者遺族の人権」を妨げるモノではないことは容易におわかりになることと思います)
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