田母神思想を支えるもの
- 2008/11/12
- 14:34
小泉政権以前なら、もし田母神氏のように考えていても、公の場で口にするのはまずいという理性的判断は働いたと思います。しかし今はそのタガがとれてしまったようです。
彼がここまで大胆なのは、「アパグループは、羽田、森、安倍の3元首相に表彰式の発起人を依頼した」ことがあるのではとも言われますが(読売より)、その背景に草の根ファシズムが彼を力強く支えてくれるのを感じているから、というのはないでしょうか?「ネットでも支持されている」という発言はそれを表していると思います。
この草の根ファシズムに関連して、本日のJANJANに興味深い記事があったのでメモ。(これは9条改正だけでなく、自爆史観に走ることにも言えると思います)
http://www.news.janjan.jp/government/0811/0811101186/1.php
憲法9条、25条問題に帰結する心の病と貧困~生きたい!平和に 2008年11・3憲法集会
(引用開始)
●香山リカさんのお話
精神科医の香山さんは、精神科医がなぜ憲法の話をするのかとよく聞かれるそうです。香山さんは、憲法を変えようとする動き自体、社会の心の病気の問題があると述べ、諸問題を抱え、だれもがどうにかしたいと思っているいまの日本社会が、憲法を変えればよくなるという発想があるのではないか、と語りました。
改憲論の世論が高まってきたのは、1980年代後半から1990年代に入ってからです。その時代はどんな時代であったかというと、バブルが崩壊して不況が本格化するなか、1995年には阪神淡路大地震があり、オウム真理教の地下鉄サリン事件が起こりました。90年代半ば以降、これまで信じてきた安心安全が脅かされ、経済大国の自信も喪失し、拠り所としてきた価値観の崩壊によって、改憲の声が高まってきたことを指摘しました。
香山さんは、不安や恐怖が押し寄せてきたとき、不安を不安として受け止め、乗り越える人は強い人であり、ふつうの人は否定し、見なかったふりをすると述べ、不安から逃れるために何か別の要素を見つける、と語りました。カルロス・ゴーン氏がきて、これまでの日本を丸ごと否定し、終身雇用や年功序列は世界で通用しないと言うと、経営者は自信をなくす。一般市民も災害やテロなどの不安に直面し、政治家も同じだと語りました。
経済や生活の安定が揺らぎ、現実を受け止めることができないとき、見つけたのが愛国心だった、と述べ、日本文化の歴史や神話を持ち出して愛国心をあおり、改憲に手をつけ、行き詰まってきた日本を一新するために憲法を変える。
しかし、改憲を目指した安倍元首相がいまや自ら唱えた再チャレンジを余儀なくされているように、憲法を変えても生活が良くなるわけではなく、改憲論は国内の行き詰まりから目をそらすための打ち上げ花火のようなものであったと語りました。
香山さんは、憲法を守ろうとする人にとって、「今がチャンス」と述べ、多くの国民は自分たちが騙されたことに気づき始めており、だれも好き好んで病気になる人はいないのに、自己責任の名のもとに高齢者や障害者など社会的弱者が切り捨てられる冷たい社会に対し、「こんな世の中はおかしい」と声を上げていると語りました。
人々は威勢のいい改憲論で世の中がよくならないことに気づいており、憲法を大切にという人が増えている、と述べ、「今がチャンス」であることを強調しました。
(引用終わり・強調、下線は私)
ちなみに、95年の阪神大震災、オウムの地下鉄サリン事件は、刑事司法においても転換期になっていることは以前このエントリーでとりあげました。
司法も社会の大きなうねりには抗えません。連動しています。
この社会の攻撃的なうねりは、刑事司法では、厳罰主義に走り、悪いヤツに情け容赦はいらない弁護人もいらない、殺してしまえ、という恐ろしいうねりとなって表れ、裁判所もそれに流されているのです。
2001年以降の小泉、安倍政権ではそれまでの保守、右翼の性質とは違う新右翼、ネット右翼が台頭しました。
一時白装束のパナウェーブってカルト集団が世間を騒がせたことがありますが、ある意味、あれにそっくりだと思うのです。白い布が電磁波から身を守ってくれるなんて、何の根拠もない滑稽な主張で、科学者からは一笑にふされます。でも、信者はどれだけ説明してもこの当たり前の科学的事実を聞こうとしません。それどころか、「白い布が電磁波を防がないとお前が証明してみろ」とくる。
この「科学的」の言葉を「歴史的」に置き換えるとそのまま歴史修正主義に当てはまります。
歴史修正主義の自爆史観なんて、学問的に言ったらおよそ話にならず、まともな歴史学者からは一笑に付されるんですね。
また論理的な面でもわやくちゃです。彼らの話を聞くと、客観的事実とただの主観的な希望的推測の区別すらついていないのですから。
しかしそこは無理が通れば道理が引っ込むの世界。そこを歩く人が多ければそれが道になる、の世界。グローバルレベルでは馬鹿馬鹿しくて到底相手にされないようなものでも、日本の中では道になりつつあるのです。
新右翼、ネット右翼はカルト集団と心理的に共通するところが大きいと思います。
カルトは不安や悩みなど心に何らかの問題を抱えてる時に上手に入り込み、その人を取り込んで行きますが、社会も、社会の心の病気の問題があれば、カルト臭のするものに引かれがちになるのではないでしょうか
ネオナチや、ホロコースト否定論も同じです。あれも一種のカルトです。勇ましさに酔いしれて、熱に浮かされて周りが見えないまま高揚感に駆られて怒濤のように同じ方向になだれ込んでいく・・それが快感なんです。
ナチスが台頭したとき社会心理の基盤は同じです。私たちは何故優れたワイマール憲法のもとでそれを壊すナチズムが誕生したのかを常に思い起こす必要があります。非常に優れた憲法9条を怖そうとしているのはこれとまったく同じです。
ネトウヨの改憲論は、およそ現実とはかけ離れた理由で盛り上がっています。
中共が攻めてくる、バ韓国が気に入らない、バカにされないよう軍隊を持って思い上がったシナ人やチャンコロをぶっ殺してやる、というのが本音なんですね(それだけでも凄いゼノフォビア、レイシズムで反社会的、反倫理的なんですけどそこは都合良くスルー)
とにかく強くありたいかっこよくありたい、軍隊はかっこいい、というのがまずありき。こういう心理は自分より弱いもの、虐げることが出来る憎悪の対象を求めます。一種のスケープゴートです。それが「特ア」
彼らには政府の改憲路線の本当の理由が見えてない、というか、見ないようにしている気がします。
自民支配層が改憲したいのは、もっとアメリカに追従しやすくするためです。他ならぬ、アメリカが改憲を望んでいるのですが。(でも理由は違ってもネトウヨも改憲勢力であることに違いはないから、政府も利用できるものは利用しちゃおう、と。)
アメリカ追随故に9条改正、というのは反米のネトウヨにとって自分たちのポリシーとは矛盾するのが痛いところ。
物理的にアメリカにもっとも近い位置にいるのは自衛隊です。ネットの電波少年がそのままリアルへ飛び出してきたような田母神さんは、イラク派兵の間、この矛盾に悶々としなかったのでしょうかね?ちょっと不思議。しかしそこは「見たいものしか見えない」ってやつで適当にスルーかな?
一方、5月の読売、朝日の世論調査で9条改正反対が増えたこと、蟹工船が売れたり若い人の共産党入党が増えたりしたこと、イラク派兵違憲判決がでたり沖縄ノートで歴史修正主義が沖縄の歴史を改ざんするのを認めない判決がでたこと、などからも、「人々は威勢のいい改憲論で世の中がよくならないことに気づいており、憲法を大切にという人が増えている、「今がチャンス」である」といえる可能性は有ると思います。
民主主義、平和主義というゆるぎない戦後の価値観は、戦前のファシズムや侵略戦争の反省の上に築かれたものです。しかし自衛隊のトップが(自衛隊という組織が、といっていいでしょう)それを根底から否定したのです。
田母神氏の歴史認識は誤りであることを国会でしっかり言及せねばならないと思います。そして自衛隊内部でどんな教育がおこなわれていたか、防衛省は普段から自衛隊の内部をどのくらい把握し監督できていたか、等、洗いざらい検証すべきだと思います。
問題を単に退職金返還の問題にしたり、更迭の理由も政府見解に反すると言うだけでは、この問題が矮小化されてしまいますから。
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