橋下人気の蔭りに思う

ここにきて橋下氏に逆風が吹いています。
橋下氏と同じく地方ポピュリストである河村氏と減税日本もかつての勢いはすっかりなくなってしまいました。

橋下氏の支持率は依然高いものの、今年の初めには既に低下傾向にあったようです。
（参考：橋下・大阪府知事：かみ合わぬ人気　低支持の「維新」「都構想」－－毎日新聞世論調査
http://goo.gl/tQrPf）
最近週刊誌などで『橋下バッシング』の記事が増えたことも報道されています。
http://goo.gl/9DK1B

しかし私はこの状況を喜ぶことができません。なぜなら私が知る限り大手メディアの『橋下バッシング』記事の大半はまともな橋下批判になってないからです。

週刊新潮と週刊文春の橋下の見出しが酷い、とkojitakenさんがはてなで書いてらしたのでネットで見てみました。

うげ。
なんですかこれは。

週刊新潮
http://www.shinchosha.co.jp/shukanshincho/newest/

血の雨が降る「大阪決戦」！
「同和」「暴力団」の渦に呑まれた
独裁者「橋下知事」出生の秘密
▼「オヤジはヤクザで同和に誇り」叔父が『新潮45』に語った！
▼なぜか「同和予算」だけは削れない「橋下知事」の情念
▼「橋下知事」は売春地帯「飛田新地」の守護神だった

週刊文春
http://www.bunshun.co.jp/mag/shukanbunshun/

暴力団組員だった父はガス管をくわえて自殺
橋下徹42歳　書かれなかった「血脈」
バットで人を殴り殺した従兄弟と、元暴力団組員の叔父が「橋下」の名を利用して…

酷すぎます。
どこが橋下「批判」ですかこれ？
子供は親や出自を選ぶことはできません。
こんなの批判でもなんでもありません。胸が悪くなるよな中傷と同和差別ではありませんか。こんなことしか書けない新潮も文春もまた、日本の民主主義を崩壊させる共犯です。
もし日本が差別撤廃条約を受けてヘイトクライム禁止法を制定していたら、この見出しだけで処罰対象となるに違いありません。
橋下府政のポピュリズム的で独裁的な政治手法、恐怖政治と言えるような政策（いわゆるハシズム）を正面から批判した記事ではなく、こうした醜い差別や中傷記事ばかりが表だって目立つ日本のジャーナリズムって、なんと情けないことでしょう！

思わず橋下氏に同情したくなりました。
・・・てことは、あれ？ひょっとしてこういう酷い記事を書くなんてあんまりだ、橋下さんかわいそう、こんな中傷に負けないで！と同情を集めて支持率高めようとする新潮と文春のツンデレ作戦（笑）？


大阪で売れているという今月号の「新潮45」ですが、例えば【孤独なポピュリストの原点】という記事は教育基本条例や職員基本条例に批判的ではあります。
しかし何故これらがいけないかについては「経済的にも成功したやり手のワンマン社長が部下にも自分がしてきたのと同じ負担を強いる構図そのもので、ここまで成功した自分にできてなぜこの程度のことがお前はできないのか、と言う理屈を府職員につきつけてるようなもの」だからいけないのだというとらえ方をしています。
橋下をポピュリストで嘘つきで血も涙もないワンマンな人間と、かなり辛口に批判し、そういう人格態度から冷酷なハシズムが生まれたのだ、という分析まではしていても、ハシズムの何がいけないのかをその本質から掘り起こすような批判の仕方をしていないのです。

教育基本条例は戦前の反省から得た教育の政治的中立性という原則を破って時の権力者による大幅な恣意的介入を可能にしています。「これでは教育は工場の品質管理だ」「これでは教育は崩壊する」と教育現場や保護者からも猛烈な批判があがっています。
職員基本条例は公務員の中立性を侵し、これまた時の権力者に私的な忠誠を尽くさせようとするものです。
つまり、この二つの条例は、「やり手のワンマン社長が部下にも自分がしてきたのと同じ負担を強いる構図」だからいけないのではなく、民主主義の根幹を揺るがす明らかな憲法違反の条例だからいけないのです。

ハシズムは、大衆を煽り支持を取り付けるポピュリズムの手法で多数決という民主主義の手段にのっとりながらも本来の民主主義を死滅させるような政治を目指すものです。ヒトラーがワイマール憲法下でナチスを生まれさせたのと同じ手法なのです。
特集を組むなら、橋下氏個人の分析や非難にとどまらず、ハシズムそのものの批判を本質から掘り起こしてし行わなくては、何となく橋下を支持してきた大多数の府民にはせいぜい「橋下ってこんな性悪な人間やったんか」という受け止め方しかされないかもしれません。
これでは単なる橋下氏個人の人格非難に終わってしまい、橋下氏がヒトラーそっくりの手法を用いて民主主義を破壊しようとしている、そして自分たちも知らず知らずのうちにそれに荷担してきたのだ、という一番大事なことが伝わらないのではないでしょうか。

もし府民が反橋下に回ったとしてもその理由が「あの人めっちゃ性格悪いわ」だけでは駄目なのです。
彼のファシズム、ポピュリズムの本質にNOを突きつけるのでなければ、ファシズムとその前座であるポピュリズム劇場を歓迎する素地は残されたままになってしまいます。

過去記事で何度か触れたことがありますが、ファシズムはその政治家だけが問題なのではなく、社会がそういう政治家を歓迎し欲することが一番問題なのだと思います。
mixiでいただいた素晴らしいコメントをこちらに載せておこうと思います。

ヒトラー個人の人間性を批判してもナチズムは傷つきません。ナチズムが悪いのは、ヒトラー個人の性格や行為が原因ではなく、温床となったドイツの（広く考えればヨーロッパの）伝統的精神や民族主義・帝国主義に大きな欠陥があったからとは多くの識者が言っていること。
実際に読んでないから断定的なことは言えないけど「新潮４５」は橋下個人の攻撃におわっているみたいですね。新潮に期待するのが無理といえばそれまでですが、これでは「ハシズム」批判にはなりません。もっとも「ハシズム」を育てた温床をまともに追求すると新潮のような俗悪メディアにぶつかるわけで、やぶ蛇になってしまいますが。
しかし、実は橋下をここまで増長させた責任を最も問われるのは「朝日」のような「良識的ジャーナリズム」が橋下人気の危険性を正面から批判してこなかったことにあるのではと思います。確かに「朝日」は橋下との対立を明確にした面もあったけれど、行政手腕など妙にもちあげた記事を掲載したりもしたのです。政治思想は「腐ってもリベラル」のプライドを捨て去ったわけではないけれど、経済右派の同紙の体質をよく示したといえるでしょう。「世界」も所詮小物で低俗すぎて語るに値しないと判断したのか大きく取り上げることもなかったし。残念ながらこれらの「良識的ジャーナリズム」にファシズムの危険性をいち早く感知し、批判の声をあげることは期待できないのかもしれません。

このまま橋下氏が凋落していくのか、あるいはこの誹謗中傷を逆手にとって再び支持を得て盛り返すのか、私にはわかりません。
ただ、日本のジャーナリズムがハシズムを正面から批判せずただの個人攻撃に終始するなら、たとえ橋下氏個人が失脚しても容易に第二、第三の橋下氏が生まれてきて再び歓迎されることでしょう。

メディアは何一つ教訓を学んではいないのです。