橋下氏は公務員を私物化し、恐怖政治を行おうとしている

このところ橋下氏の呆れるほどの暴君ぶりが目に余ります。
いろいろありますが、代表的なのは君が代強制条例（これはもう可決されてしまいました）、職員基本条例案と教育基本条例案です。
都構想もめちゃくちゃだし、咲州庁舎も無責任すぎます。

橋下氏が最も警戒しなければいけない政治家だと私は以前から何度か書いてきました。小沢さんをめぐる政局ウォッチはよく見かけますが、私的には小沢さんよりもはるかに橋下氏の方に注意を払いたいと思っています。

リアルタイムで書いておきたいことを優先してきたので、この辺で遅ればせながらしばらくハシズムについてのエントリーを中心に書いていきましょう

今日はこちらのニュースから。

橋下知事、市長になれば「都構想反対職員外す」

　大阪府の橋下徹知事は１２日、代表を務める地域政党・大阪維新の会の会合で、府と大阪市などの再編による都構想を争点に掲げる大阪市長選（１１月２７日投開票）を念頭に、「（構想を）実現してくれる市幹部が誰なのか。リストアップしておき、市長選をとれば一気に人事権を行使して新しい市役所に生まれ変わらせたい。（構想反対の）政治（活動）に乗り出してきた職員は根こそぎ外す」と述べた。

　都構想を「踏み絵」に幹部を登用する手法とみられ、市側からは「恐怖政治の始まり」などと反発が強まっている。

　橋下知事は会合で、維新の坂井良和・大阪市議団長らに「市職員を詳細に評価し、リストアップしてもらいたい。維新の政治的価値を実現してくれる職員を幹部に据えることは当然」などと呼びかけた。

　会合終了後には報道陣に対し、「（市長選前の）１０月１０日頃に実名を入れた人事会議を開き、市役所の体制を決めたい」と説明。知事を辞任して、同市長選にくら替え出馬する意向を強くにじませた。

（2011年9月13日06時44分 読売新聞）

大阪都構想：橋下知事、賛否巡り市幹部職員を選別へ
2011年9月13日 2時18分

　首長政党「大阪維新の会」代表の橋下徹大阪府知事は１２日の維新の会合で、自らが提唱する「大阪都構想」などに反対する大阪市幹部職員を降格させる意向を示す一方、構想実現に参画させる大阪市の幹部候補者を１０月初旬をめどにリストアップするよう指示した。大阪市長選出馬を示唆する橋下知事は早くも、都構想の賛否を巡る市幹部職員の選別に乗り出した。「踏み絵を踏ませるのは権力の横暴」。市幹部からは反発の声が相次いだ。【堀文彦、小林慎】

　１１月２７日投開票の知事・市長選向けに開かれた会合には、維新の大阪府議、大阪市議が参加。橋下知事は「都構想推進に大阪市役所は真っ向から反対しているが、実現する市役所組織にしなければならない。大綱をしっかり実現する幹部候補職員のリストアップ作業をやってもらいたい」と維新市議団に指示し「政策実現するための人事を断行したい」と表明した。都構想では大阪市役所解体をメーンに据えており、都構想に対する幹部職員の賛否をはっきりさせる考えだ。

　維新の会大阪市議団の坂井良和団長は、降格の対象となる幹部について、局長と主な部長、課長クラスとなることを説明。選考基準に関しては、取材に「長年職員を見てきて、ただちに対応できる人と、（逆に）こり固まって受け入れない人との違いは分かる」と話したが、具体的手法については「私もちゃんと理解できていない」と述べるにとどめた。

　会合終了後、記者団からは「恐怖政治的なものになるのでは」との指摘が出たが、橋下知事はと反論した。

　一方の大阪市幹部職員。課長級の５０代男性職員は「私らは入庁時に『市民の信託に応える』との誓約書を書いている。維新の政治家のために仕事をする立場にはない」。５０代のある男性幹部は「自分が賛成できない政策でも議会などで方向性が決まればきっちりこなすのが公務員。特定の政策に賛成か反対かで色分けするのはナンセンスだ」と話した。

　また、別の５０代男性幹部は「維新の議員に職員を見る目があるのか。維新のおごり以外の何物でもない」と皮肉り「市長が替わるたびに職員を入れ替えるとしたら最悪のやり方だ」と語った。

　維新は大阪府議会で過半数を得ているが、大阪市議会では第１党で、過半数に届いていない。

公務員に個人的にも忠誠を求め、それに迎合しない者は粛正するなど言語道断、これを恐怖独裁政治と言わずして何というのでしょうか。

憲法は「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。」と定めています（15条Ⅱ項）
これは、公務員は国民全体の利益のためにその職務を行なわなければならず（全体の奉仕者）、特定団体の利益のために行動してはならないという職務の公共性、中立性を定めた規定です。

上の報道で大阪市幹部職員が述べている
「私らは入庁時に『市民の信託に応える』との誓約書を書いている。維新の政治家のために仕事をする立場にはない」
とは、まさに憲法15条Ⅱ項の「全体の奉仕者」についてそのまま言い表しています。

しかるに、公務員に個人レベルで橋下への忠誠を要求し、従わない者を恣意的に降格するというのは「一部の奉仕者（この場合は橋下氏や維新の怪の奉仕者）」になれ、と強要しているのですから橋下氏や大阪維新の怪による公務員の私物化もいいとこ、完全に憲法違反の行為です。

橋下氏は「恐怖政治と言うなら（市職員は）政治から距離を置くべき。（都構想に反対する職員が）自分たちで（政治に）首を突っ込みながら、お門違いだ」
などと言っていますが、要するにガタガタ言わずに自分に従え、従わぬ者は憲法や地方公務員法に反しても粛正してやる、ということですねわかります。
もう少し穏やかに言っても、彼のこの発言はおよそ憲法15条の趣旨もそれを受けて制定された国家公務員法、地方公務員法の公務員の身分保障制度の趣旨を全く理解していないとしか言いようがないです。

「恐怖政治と言うなら（市職員は）政治から距離を置くべき。」ってどういう意味でしょうか？政治的意見を持つなら、それによる処分の対象になることを甘受せよ、ということでしょうか？（とりあえず自分の政治は恐怖政治だという自覚はあるのかな？）

当然ですが、公務員も政策に対し意見を持つ権利はあります。但し職務上は個人的な政治的見解に従うのではなくあくまでも中立性をたもたねばなりません。報道で市職員が述べてるように「自分が賛成できない政策でも議会などで方向性が決まればきっちりこなすのが公務員」それが全体の奉仕者、公僕たるゆえんです。
従って、議会の決定などに反して職務上自分の政治的意見を押し通し職務の中立性を疑わせるようならともかく、政策に対する個人的見解を理由に処分対象とするのは公務員の身分保障を定めた地方公務員法（もちろん国家公務員法にもある）に反します。

公務員の身分保障とは、
「職員は、法律又は人事院規則に定める場合（勤務実績不良、心身故障による職務遂行困難等）以外は、職員本人の意に反して、降任、休職又は免職されることはない、」
というもの。
そもそも何故公務員には身分保障が必要とされているのかというと、別に「公務員を甘やかすため」ではありません。

公務員は民間の労働者とは違い、憲法15条で全体の奉仕者たることが求められることは先に書きました。
つまり公務員の仕事は、市民生活に直結する公共性が高い仕事であるという性質を持っています。
救急車や消防、警察なんかを想像してみればわかります。
このような公共性の高い行政サービスは安定して市民に提供され続けなければなりません。
１１９や１１０は24時間365日、いつでも確実に市民が利用できないと困るのです。
この公共性の高い行政サービスを安定して提供するために、憲法で認められている労働者の権利（団結権・団体交渉権・争議権）が公務員においては一定程度制限されます。
例えば賃上げ要求のために消防署職員、警察職員に争議権（ストライキ）を認めたのでは、火事がおこっても消防車はきてくれない、交通事故が起きても警察も救急車もきてくれない、という困った事態になってしまいます。
従って、労働者の権利を一定制限する代わりに、そもそも争議を行わなくてもすむように賃金も身分もきっちり保障しよう、そうして安心して職務をまっとうしてもらい、市民に安定して行政サービスを提供してもらおう、というのが公務員に身分保障が認められている理由なのです。

また、一部の政治権力に支配されることを拒んだからと言って不利益な扱いを受ければ一部の奉仕者のために働くことになり、国民全体の奉仕者としての使命をまっとうできません。
政治介入を排して、職務の中立性を維持するためにも身分保障は必要です

つまり、公務員の身分保障は、公務員が政治的中立性を保って国民（地方公務員なら地域住民）全体の奉仕者として働くことを確保するために欠くことのできない制度なのです。
従って橋下氏が公務員を自分の言いなりにさせるため公務員の身分保障規定を破壊するなど、断じてゆるされないことです。
それともご自分は法律よりも憲法よりも上だとでも？

（余談：市場に左右される民間企業の仕事は営利が第一目的ですが、公務員の仕事の目的は営利ではありません。従って公務員という仕事には、基本的に市場を支配する競争原理はなじみません。橋下氏は何かというとすぐに民間を引き合いに出し、府職員、市職員、教職員など公務員の職場に市場の競争原理を持ち込もうとしますが、これは公務員の仕事の性質を全く理解していないと言えます）


しかし昨今この公務員の身分保障は民間雇用の不安定さを反映して、公務員叩きの対象に含まれてしまっています。
橋下氏は法律家ですから身分保障の趣旨は当然知っているはずですが、その説明を府民にすることもなく、公務員叩きの流行に乗っかって身分保障制度を攻撃するのは非常に悪質です

「選挙で勝った自分こそが民意、民意には従え」という彼の論理では、市民ウケが良ければ身分保障の剥奪もまた「従うべき民意」ということになります。彼はこの憲法違反、地方公務員法違反も「民意だ。民意に逆らうな、民意は絶対だ」とお得意の「民意の御紋」をかざして正当化するのでしょうか？
（なお、「民意の御紋」については別エントリーで書くつもりです。）


ウォッチドッグたるマスコミは、権力者のこういう好き勝手な暴走で民主主義が破壊されようとする前に立ちふさがり激しく吠えて市民に警告を発するのが役目です。力のある人気者には遠慮してしっぽを振る駄犬になってはいけません。

マスコミは悪意がほとんど感じられない発言を捕らえて大臣辞任まで追い込んだことと比べると、橋下氏のこのファシズム独裁恐怖政治発言に対しては厳しく追及しようとする姿勢が感じられません。
彼は以前も「今の日本の政治に必要なのは独裁」と真正面から民主主義や憲法を否定する大胆な問題発言をしたのに、マスコミはそれを問題視してクローズアップしようともせず、まるで他人事のような書き方でした。
今回のように市職員に自分への忠誠の踏み絵を踏ませ、憲法違反の首切り降格を断行するというのなら「政治家として見識を問われる、辞任もいたしかたない」くらいの強い批判姿勢を見せなければ、「偏向報道」と言われても仕方ないでしょう。

何度も繰り返して言いたいと思います。
橋下氏が行おうとしていることは明らかに民主主義の破壊です。
いちど民主主義を破壊するシステムができてしまうと元に戻すのは並大抵ではありません。
大阪はルビコン川を渡りつつあるのを全力で引き返さなくてはならないと思います。