原子力賠償法は無過失責任だけでなく、因果関係の推定、立証責任の転換も明記すべきだと思います
- 2011/09/04
- 16:00
大阪・泉南アスベスト訴訟で大阪高裁がトンデモ判決を出しました。
将来、原発事故による被曝が原因と思われる健康被害についての確実に訴訟が起こされることでしょう。そのとき東電や行政、そして司法はどのような姿勢で対応してくるか、それに大きな陰を落とす判決でもあります。
これについて村野瀬玲奈さんが詳しく書かれています。
◆村野瀬玲奈の秘書課広報室
泉南石綿訴訟の二審での原告敗訴は日本政府の生命軽視の姿勢を示す。
将来の福島原発事故の訴訟の行方を予測させる原発労災訴訟についても見てみました。
残念ながら、原発の労災は期待したほどには認定されてないようです。
少々古いエントリーになりますが、法律問題に詳しいブログ「Because It's There」から引用させていただきましょう。 できればリンク先で全文をお読みください。
◆Because It's There
去年最高裁で不当判決が確定した長尾裁判という原発労災訴訟がありました。
骨髄がんの一種の多発性骨髄腫になった福島原発元作業員の長尾光明さんが労災申請をしたところ、この病気は原発作業員の労災対象に含まれていなかったため、厚生労働省は専門家による検討会を開き被ばくとの因果関係を認めて労災認定しました。
しかし東電は因果関係を認めなかったので訴訟が起こされました。
(以下参考:http://sokonisonnzaisuru.blog23.fc2.com/blog-entry-1153.html
http://www.cnic.jp/modules/smartsection/item.php?itemid=124
http://www.jttk.zaq.ne.jp/hibaku-hantai/nagao-saiban-sien.htm)
東京地裁はなんと、長尾さんの病気は多発性骨髄腫かどうか疑わしいと病名を否定したした上で、被曝との因果関係を否定しました。そして去年の2/23に最高裁は最高裁は地裁からの判断を支持し原告の上告を棄却しました。
この司法の判断は異様です。
通常行政側はなかなか労災認定をしたがらないものです。
長尾さんの場合、なかなか労災認定したがらない行政側が専門家による検討会議を開いて労災と認めたのだから、これは被曝と病気の因果関係はかなりの確からしさで存在すると言ってもいいと思います。
しかし裁判所は因果関係を否定したのみならず多発性骨髄腫であったことすら否定しました。
その理由は長尾さんの首など4ヶ所で起きた骨融解全てで国際骨髄腫作業グループの診断基準を満たしたと確認できなければ多発性骨髄腫と認定できないというものでした。
診断基準を満たしたのは1ヶ所でしたが、それは一カ所しか検査できなかったからです。骨髄検査は非常な苦痛が伴いますから、医師は患者の負担を考え1回しか検査が出来なかったのです。それを裁判所は4カ所とも検査しなければ発性骨髄腫と認定できないと言うわけです。
似たような症状の4つのうち一つを調べたら多発性骨髄腫と認められたのですから、残りもそうであろうとの推定が働くのが普通です。4カ所とも調べなければ多発性骨髄腫と認めないという裁判所の言い分は科学的根拠に乏しく、なんとしても多発性骨髄腫だと認定したくないという意図が感じられます。
また裁判所は、英米仏での被ばく補償制度の中で多発性骨髄腫が対象疾患であることも他国のこととして退けましたが、全くおかしな話です。イギリス、アメリカ、フランスでは被曝したら多発性骨髄腫になる可能性があるのに、日本では被曝しても多発性骨髄腫にはならない、とでもいうのでしょうか?
司法が長尾さんを多発性骨髄腫と認めず、因果関係まで否定したのは非科学的で、と言わざるを得ません。
これでは原告は、行政側が開いた専門家による検討会議で得た科学的根拠よりを更に上回る科学的な立証をしなければ因果関係は認めてもらえないわけで、事実上因果関係の立証など不可能です。
司法はどこまで原発利権構造に迎合し、国民をないがしろにするのでしょうか。司法は「人権の砦」としての役割を放棄しているという批判がここでも当てはまります。
何の専門知識もデータを集める手段も持たない一個人が被曝と病気の因果関係を立証するのは困難を極めます。こういう場合一定の事実さえあれば因果関係の存在を推定し、立証責任を転換するのが公正公平です。
例えば過去、公害訴訟では過失・因果関係等の不法行為の要件の証明に関して、当事者の証明責任の軽減を図ろうとしました。新潟水俣病事件判決(新潟地判S46.9.29 下民集22-9-10 別冊1)では
「被害者に対し自然科学的な解明までを求めることは、不法行為制度の根幹をなしている衡平の見地からして相当ではなく、・・・その状況証拠の積み重ねにより、関係諸科学との関連においても矛盾なく説明ができれば、法的因果関係の面ではその証明があつたものと解すべきであり、・・・汚染源の追求がいわば企業の門前にまで到達した場合、・・・むしろ企業側において、自己の工場が汚染源になり得ない所以を証明しない限り、その存在を事実上推認され、その結果すべての法的因果関係が立証されたものと解すべきである。」
とされています。(<不法行為の要件(3) - 損害発生と因果関係>よりhttp://www.ne.jp/asahi/ikeda/office/resume/fuhou2011-04.pdf)
しかし「これまで、原発労働者で労災認定された6人のうち、長尾さん以外は白血病だ。白血病は被ばく線量による認定基準がある。肺がんや骨肉腫などは対象疾患ではあるが、労働者が因果関係を「立証」しなくてはならないのが現状だ。」(東京新聞平成20年5月24日付朝刊24面「こちら特報部」)
被曝確実な原発労働者ですらこれなのですから、これでは周辺住民により今後起こされるであろう訴訟の先行きは相当厳しいのではないでしょうか。
原子力賠償法は被害者の手厚い補償が目的のはずです。
たしかにこの法律は企業側に無過失責任を定めていますが、因果関係の立証負担を被害者側に負わすならほとんど役には立ちません。
例え裁判で因果関係の立証責任が転換されて勝ったとしても時間がかかりすぎて迅速な被害者救済からはほど遠いです。
原子力賠償法に公害訴訟と同様に一定の条件を満たせば因果関係の推定、立証責任の転換を行う旨の規定が追加されれば少しでも速やかな救済が望めるのではないでしょうか。
私は原子力賠償法に因果関係の推定、立証責任の転換も明記するよう求めたいと思います。
野田内閣や今の国会がそれを積極的に取り組んでくれる期待値はかなり低いですが・・・。
-・-・-・-
「原発は事故がなくても、仕事の中で被ばくをしいられている労働者がいなければ絶対に動かないことをよく理解しておく必要があります。」(「よくわかる原子力」より)
原発は平常時でも常に生け贄を捧げ続けないと稼働しない施設なのです。
私達はそうとは知らず安心安全エコな電力と信じ込まされ原発が生み出した電気を使ってきました。
今まで人知れず何人の人柱が立ったのでしょうか。
「原発による電力ほしさにこれからも誰かを生け贄に捧げ続けてかまわないのですか?」
いまだに電気はいらないのかとか経済活動がどうとかいう原発推進派の人に問いたいと思います。
将来、原発事故による被曝が原因と思われる健康被害についての確実に訴訟が起こされることでしょう。そのとき東電や行政、そして司法はどのような姿勢で対応してくるか、それに大きな陰を落とす判決でもあります。
これについて村野瀬玲奈さんが詳しく書かれています。
◆村野瀬玲奈の秘書課広報室
泉南石綿訴訟の二審での原告敗訴は日本政府の生命軽視の姿勢を示す。
将来の福島原発事故の訴訟の行方を予測させる原発労災訴訟についても見てみました。
残念ながら、原発の労災は期待したほどには認定されてないようです。
少々古いエントリーになりますが、法律問題に詳しいブログ「Because It's There」から引用させていただきましょう。 できればリンク先で全文をお読みください。
◆Because It's There
原発労災:悪性リンパ腫も労災対象に~厚労省、因果関係認める方針
http://sokonisonnzaisuru.blog23.fc2.com/blog-entry-1465.html
(引用開始)
(前略)これらの記事を見ると、原発労災は認められることが極めて少ないことが分かります。
イ:すなわち、現在までに原発と関わった総労働者数(1970~2005年)は169万7000人で、総被曝線量は(累積)2851ミリシーベルトと記録されているほど、多数人の被曝が生じているのに(JAN JAN「安全神話の闇に葬られる原発被曝労働者」(2007/06/01)))、<1>厚生労働省によると「原発で働く人の被ばくによる労災の認定は今回が7件目」にすぎず、<2>「原発労働者の労災認定はこれまで白血病以外は、多発性骨髄腫で1例あるのみ」という少なさで、<3>「悪性リンパ腫での認定は初めて」なのです。
「原発城下町」では労災申請を思いとどまらせる雰囲気がある(東京新聞)状態のなかで、何とか申請してもまるで認められず、裁判においても、被曝による損害を否定するものさえあります。
(引用ここまで)
去年最高裁で不当判決が確定した長尾裁判という原発労災訴訟がありました。
骨髄がんの一種の多発性骨髄腫になった福島原発元作業員の長尾光明さんが労災申請をしたところ、この病気は原発作業員の労災対象に含まれていなかったため、厚生労働省は専門家による検討会を開き被ばくとの因果関係を認めて労災認定しました。
しかし東電は因果関係を認めなかったので訴訟が起こされました。
(以下参考:http://sokonisonnzaisuru.blog23.fc2.com/blog-entry-1153.html
http://www.cnic.jp/modules/smartsection/item.php?itemid=124
http://www.jttk.zaq.ne.jp/hibaku-hantai/nagao-saiban-sien.htm)
東京地裁はなんと、長尾さんの病気は多発性骨髄腫かどうか疑わしいと病名を否定したした上で、被曝との因果関係を否定しました。そして去年の2/23に最高裁は最高裁は地裁からの判断を支持し原告の上告を棄却しました。
この司法の判断は異様です。
通常行政側はなかなか労災認定をしたがらないものです。
長尾さんの場合、なかなか労災認定したがらない行政側が専門家による検討会議を開いて労災と認めたのだから、これは被曝と病気の因果関係はかなりの確からしさで存在すると言ってもいいと思います。
しかし裁判所は因果関係を否定したのみならず多発性骨髄腫であったことすら否定しました。
その理由は長尾さんの首など4ヶ所で起きた骨融解全てで国際骨髄腫作業グループの診断基準を満たしたと確認できなければ多発性骨髄腫と認定できないというものでした。
診断基準を満たしたのは1ヶ所でしたが、それは一カ所しか検査できなかったからです。骨髄検査は非常な苦痛が伴いますから、医師は患者の負担を考え1回しか検査が出来なかったのです。それを裁判所は4カ所とも検査しなければ発性骨髄腫と認定できないと言うわけです。
似たような症状の4つのうち一つを調べたら多発性骨髄腫と認められたのですから、残りもそうであろうとの推定が働くのが普通です。4カ所とも調べなければ多発性骨髄腫と認めないという裁判所の言い分は科学的根拠に乏しく、なんとしても多発性骨髄腫だと認定したくないという意図が感じられます。
また裁判所は、英米仏での被ばく補償制度の中で多発性骨髄腫が対象疾患であることも他国のこととして退けましたが、全くおかしな話です。イギリス、アメリカ、フランスでは被曝したら多発性骨髄腫になる可能性があるのに、日本では被曝しても多発性骨髄腫にはならない、とでもいうのでしょうか?
司法が長尾さんを多発性骨髄腫と認めず、因果関係まで否定したのは非科学的で、と言わざるを得ません。
これでは原告は、行政側が開いた専門家による検討会議で得た科学的根拠よりを更に上回る科学的な立証をしなければ因果関係は認めてもらえないわけで、事実上因果関係の立証など不可能です。
司法はどこまで原発利権構造に迎合し、国民をないがしろにするのでしょうか。司法は「人権の砦」としての役割を放棄しているという批判がここでも当てはまります。
何の専門知識もデータを集める手段も持たない一個人が被曝と病気の因果関係を立証するのは困難を極めます。こういう場合一定の事実さえあれば因果関係の存在を推定し、立証責任を転換するのが公正公平です。
例えば過去、公害訴訟では過失・因果関係等の不法行為の要件の証明に関して、当事者の証明責任の軽減を図ろうとしました。新潟水俣病事件判決(新潟地判S46.9.29 下民集22-9-10 別冊1)では
「被害者に対し自然科学的な解明までを求めることは、不法行為制度の根幹をなしている衡平の見地からして相当ではなく、・・・その状況証拠の積み重ねにより、関係諸科学との関連においても矛盾なく説明ができれば、法的因果関係の面ではその証明があつたものと解すべきであり、・・・汚染源の追求がいわば企業の門前にまで到達した場合、・・・むしろ企業側において、自己の工場が汚染源になり得ない所以を証明しない限り、その存在を事実上推認され、その結果すべての法的因果関係が立証されたものと解すべきである。」
とされています。(<不法行為の要件(3) - 損害発生と因果関係>よりhttp://www.ne.jp/asahi/ikeda/office/resume/fuhou2011-04.pdf)
しかし「これまで、原発労働者で労災認定された6人のうち、長尾さん以外は白血病だ。白血病は被ばく線量による認定基準がある。肺がんや骨肉腫などは対象疾患ではあるが、労働者が因果関係を「立証」しなくてはならないのが現状だ。」(東京新聞平成20年5月24日付朝刊24面「こちら特報部」)
被曝確実な原発労働者ですらこれなのですから、これでは周辺住民により今後起こされるであろう訴訟の先行きは相当厳しいのではないでしょうか。
原子力賠償法は被害者の手厚い補償が目的のはずです。
たしかにこの法律は企業側に無過失責任を定めていますが、因果関係の立証負担を被害者側に負わすならほとんど役には立ちません。
例え裁判で因果関係の立証責任が転換されて勝ったとしても時間がかかりすぎて迅速な被害者救済からはほど遠いです。
原子力賠償法に公害訴訟と同様に一定の条件を満たせば因果関係の推定、立証責任の転換を行う旨の規定が追加されれば少しでも速やかな救済が望めるのではないでしょうか。
私は原子力賠償法に因果関係の推定、立証責任の転換も明記するよう求めたいと思います。
野田内閣や今の国会がそれを積極的に取り組んでくれる期待値はかなり低いですが・・・。
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「原発は事故がなくても、仕事の中で被ばくをしいられている労働者がいなければ絶対に動かないことをよく理解しておく必要があります。」(「よくわかる原子力」より)
原発は平常時でも常に生け贄を捧げ続けないと稼働しない施設なのです。
私達はそうとは知らず安心安全エコな電力と信じ込まされ原発が生み出した電気を使ってきました。
今まで人知れず何人の人柱が立ったのでしょうか。
「原発による電力ほしさにこれからも誰かを生け贄に捧げ続けてかまわないのですか?」
いまだに電気はいらないのかとか経済活動がどうとかいう原発推進派の人に問いたいと思います。
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【若者の「脱原発」ハンストと、大人からの「嫌がらせ」】----村野瀬玲奈の秘書課広報室より
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(2011年9月23日付)
若者の「脱原発」ハンストと、大人からの「嫌がらせ」
村野瀬さんの記事の冒頭の部分、
「....こういう場所でこうい...
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