江田法相、死刑執行を見合わせるだけで自己満足してていいのですか？

死刑執行、当面は命じない…江田法相
読売新聞 7月28日(木)3時1分配信

　最後の死刑執行から２８日で１年を迎えるのを機に、江田法相が読売新聞のインタビューに応じ、法務省で死刑制度のあり方の議論が進められていることから、「（議論の）最中に執行することは、なかなかできる話ではない」と述べ、当面は執行を命じない意向を明らかにした。

　同省によると、１年前の執行直後の死刑囚は１０７人だったが、２７日現在の死刑囚は過去最多の１２０人に上っている。

　同省は昨年８月、死刑の存廃を含めた制度のあり方を研究する勉強会を省内に設置したが、論点整理の段階にとどまっている。２６日、取材に応じた江田法相は「人間というのは理性の生き物なので、理性の発露として人の命を奪うのは、ちょっと違うのではないか」と死刑に対する消極的な考えを示した。そのうえで執行について「法務大臣に与えられた権限をどう行使するか、世界の趨勢(すうせい)をにらみながら考えている」とした。

刑訴法で判決から六カ月以内と規定されてるのに執行しないのは法律違反だ、法律に従えないなら法相をやめてしまえ、という勘違いがまだまだ多いのには辟易します。
なぜなら、
六カ月以内という規定は「必ず六カ月以内に執行せよ」という命令規定ではなく、一応の目安を定めた訓示規定にすぎない、よって六カ月以内に執行しなくても法相の義務に違反してるわけでも法律違反でもない
というのが判例だし、学説もそれで異論はないからです。
（また、私は死刑反対の信念を持つ者は法相の地位に就くべきではないという主張にも賛成しませんが、それについては別記事で述べることにしましょう。）

こちらのエントリーが大変詳しく法的にも正確に述べていらっしゃいますのでリンクを貼っておきます。

◆Because It's Ｔhere
衆院法務委員会での鳩山法相の発言を検討～刑訴法４７５条２項「６箇月以内」の期間延長の要否

これを知らないで論じている、たとえば死刑執行を見合わせるのは法相としての資質が問われるなんて書いている産経の記事など、ナンセンスです。

資質問われる江田法相　死刑執行に否定的、廃止に前向き
2011.7.8 11:33
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110708/plc11070811340012-n1.htm
（略）
刑事訴訟法では、死刑執行は法相の命令で行われ、判決確定の日から６カ月以内にしなければならないとしている。しかし、未執行者は戦後最多の１１９人にのぼっている。

　江田氏が死刑執行をしないことで未執行者の数はさらに増えることが予想される上に、裁判を国民に身近なものにするとの理由に創設された裁判員制度の趣旨に照らしても、法相としての資質が問われそうだ。

ちょっと話がそれるのをお許しを・・。
「裁判を国民に身近なものにするとの理由に創設された裁判員制度の趣旨に照らしても、法相としての資質が問われそうだ」
ってどういう意味ですか産経さん？？
裁判を国民に身近なものにするためには法相は死刑執行を行わなきゃならないって、全く意味不明なんですけど？
ひょっとして産経さんは、自分たちが出した死刑判決はきちんと執行されるのだという安心感がなければ裁判員がは安心して死刑判決を出せないじゃないか、とおっしゃりたいわけで？
裁判員制度は裁判員に安心して死刑を出させるのが目的、だとでも思ってるんですか？
だとしたらびっくりです。
まあ、これは裁判員制度導入を進めた司法制度改革審議会の本音ではあるけれど、ここまで露骨にバラしちゃいかんでしょ（皮肉）


さて、本題。
すっかり忘れ去られていると思うのですが、千葉前法相は死刑の是非について国民的議論をおこすきっかけにするため、自らの信念を捨ててまで死刑執行し、その場に立ち会い、非常に限定的ではあるけれど刑場の公開もしました。
死刑の是非を問うため死刑執行して見せるというなんとも倒錯した意味不明さにはほとほと呆れましたが、せっかく自らの信念を賭してまで巻き起こそうとした国民的議論とやらはその後さっぱり尻すぼみです。案の定、法務省はあれ以後なしのつぶて。
あの法務省が死刑の是非を問う問題提起の材料として自分から何かしら情報を出してくるなんて絶対にやらないにきまってますから、千葉前法相の一大決心とやらもその場限りのしょぼい打ち上げ花火で立ち消えになるのは目に見えていました。

先進国で死刑を残しているのは日本とアメリカだけなのですが、その点アメリカの情報開示の動きは興味深いですね。
玲奈さんが昨日アップされたエントリーで、アメリカでは死刑の残虐性を検証するため20年ぶりに死刑執行がビデオで録画されたというニュースを取り上げていらっしゃいました。

◆村野瀬玲奈の秘書課広報室
死刑執行方法の残虐性について
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-2713.html#

ビデオに撮るのは悪趣味という批判もあるでしょうが、こうして死刑は本当に残酷なのかどうかを世に問おうという姿勢はアメリカには存在するわけです。
それに比して、そうした動きも全くなく、毎年のように黙々と死刑判決が増えていってるのは日本だけだと言ってよいでしょう。

思うのですが、法相が個人的に死刑に賛成であれ反対であれ、もういい加減死刑制度の是非を議論しなくてはいけない時期に来てることに変わりないはずです。自分は死刑に賛成だから議論など提起しなくとも良い、というものではないでしょう。議論を提起するのは法相の政治的な役目ではないのでしょうか？ そのために必要な情報開示を法務省に働きかけれるのは法相だけなのです。

江田法相もただ単に死刑執行の判を押さないというだけなら、自らの良心を慰撫して満足してるにすぎないことになります。法相という地位にあるのなら、小さな自己満足で終わらせていてはいけない政治的義務があると思うのですが。