日本が(むろん国民も含めて)原発事故に関してだんだん感覚が麻痺してきていること、そしてモラルも麻痺してきていることを示す事例として、先日行われた「低濃度」汚染水の海洋への排出をもう少し詳しく記録しておきましょう。
長くなるので二つに分けます。
Ⅰ.事前の相談もない汚染水放出に怒りの声東電が「低濃度」汚染水を海に廃棄したことについて、漁業関係者などから怒りの声が上がっています。
東電の汚染水放出に不快感=水産物検査強化を―鹿野農水相
(2011/04/05-11:38 時事通信)
鹿野道彦農林水産相は5日の閣議後会見で、東京電力が放射性物質を含む大量の汚染水を海に放出したことに関し「農水省に前もって具体的な報告がなかったことは大変遺憾なことだ」と不快感を示し、海江田万里経済産業相に東電を厳しく指導するよう求めたことを明らかにした。
その上で、茨城、千葉両県などと連携し、水産物に対する放射性物質の検査を強化していく考えを示した。
具体的な検査地域として茨城県ひたちなか市の那珂湊漁港と千葉県の銚子沖を挙げ、「国民は安心、安全への関心が強い。調査してはっきりと水産物への影響を示したい」と強調した。
また、茨城県北茨城市の沖合で捕れた小魚「コウナゴ」から放射性物質が検出されたことに関し「(内閣府の)食品安全委員会で水産物にどういう考え方を持って対応していくか検討してもらうことも大切だ」と述べた。
「通常では考えられない行為」汚染水放出で事前に情報提供なし 茨城知事が首相と東電に抗議文
2011.4.5 22:31 msn産経ニュース
茨城県の橋本昌知事と、日立や鹿嶋など同県太平洋沿岸の9市町村長は5日、福島第1原発からの低濃度放射性物質を含む汚染水の海への放出で、事前に情報提供がなかったとして、菅直人首相と東京電力の勝俣恒久会長に抗議文を送った。
抗議文は、規制値の最大数百倍という高濃度の汚染水放出は「通常では考えられない行為」で、住民の健康や環境に大きな影響を及ぼすと指摘。
やむを得ない緊急処置としても、申請の20分後に国が容認したのは極めて疑問で、今後は情報開示や地元自治体との連携を十分行うよう求めた。
【放射能漏れ】汚染水放水で「漁業が崩壊」 全漁連が東電会長に抗議文
2011.4.6 11:52 sankeibiz
福島第1原子力発電所から放射性物質を含んだ汚染水が海へ放出されている問題で、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の服部郁弘会長らが6日、東京都千代田区の東京電力本店を訪れ、一刻も早い放水中止を求める抗議文を勝俣恒久・東電会長に手渡した。
服部会長は「漁業関係者に何の相談もなく汚染水放水を実行し、許し難い。無責任な対応に怒りを感じる」と抗議。勝俣会長が「指摘を真摯(しんし)に受け止め、最大限努力したい」と応対すると、漁業連側が「最大限ではなく(汚染水を)、海に流さないという決意を」と迫る場面もあった。
抗議文では汚染水の放水を「我が国の漁業を崩壊に導く」として、政府と東電の決定を厳しく非難。漁業関係者の被害に対する補償を求めている。
福島第1原発では4日から、低濃度の汚染水計約1万1500トンの放出が続けられている。
汚染水放出に八戸港関係者も怒り
(2011/04/07 11:10 デーリー東北新聞社)
「もう一滴も汚染水を流すな」―。東京電力が福島第1原発から放射性物質を含む汚染水を海に放出したのを受け、八戸港の水産関係者からも怒りの声が上がっている。現在、同港で水揚げされる魚介類には風評被害はほとんど出ていないが、主要魚種のスルメイカやサバなどの盛漁期に入る夏場を控え、関係者は東電と政府に対して「一刻も早く事態を収拾してほしい」と強く求めている。
土壌を汚染して農業に深刻な打撃を与えただけでなく、今度は漁業にまで痛恨の一撃です。東電はただでさえ自給率の低い日本の食に計り知れないダメージを与えました(怒)
ところで時事通信によると鹿野道彦農林水産相は東電から事前通告がなかったことに対し不快感を表明したとありますが、msn産経ニュースによれば、申請後20分で国が汚染水放出を容認したとあります。
これは汚染水放出について単に農林水産省に相談がなかったということでしょうか?
では許可を出したのは海江田経済産業相?それとも菅総理?
政府はいったい誰が汚染水放出を許可したのかを公開して、汚染水廃棄を決定した責任の所在を明らかにすべきではないでしょうか。
Ⅱ.周辺諸国にも通告なしー但しアメリカを除くこの汚染水放出は周辺諸国に通告なしで行われました。抗議がきて当然です。
「隣国に通報なし」韓国が放射能汚染水放出に反発
2011年4月5日10時42分 asahicom
福島第一原発で放射能汚染水の海への放出が始まったことに対し、韓国で反発の声が上がっている。5日付の朝鮮日報は、「隣国の韓国に一言も通報なし」との見出しで1面トップで報道。「何の協議もなく汚染物質を海に廃棄することは当然、抗議すべきことだ」とする政府高官の発言も報じた。
韓国外交通商省は4日、在日大使館を通じて日本の外務省に事実関係を確認した。外交通商省は、今回の汚染水の海への放出が国際法上、問題がないかどうかを検討しているという。
一方、韓国各紙は、放射性物質の混じった雨が7日にも韓国で降る可能性があるとする気象庁の予測も伝えるなど、放射能への警戒感を強めている。
韓国では先月28日、ソウルなどで大気中からヨウ素などの放射性物質がごく微量検出され、各メディアは「日本の放射能が韓半島全域に上陸」(中央日報)などと報道。連日、各地での検出結果も伝えている。(ソウル=中野晃)
ロシア外務省が声明「汚染水放出するな」
読売新聞 4月8日(金)10時59分配信
【モスクワ=貞広貴志】ロシア外務省は7日、東京電力が福島第一原子力発電所から低濃度の放射性物質を含む汚染水を放出したことについて、「日本がすべての関係国に対し全面的に情報提供し、さらなる汚染水の海中放出を避ける措置を取るよう望む」とする声明を発表した。
日本政府の情報伝達態勢に不満を表明するとともに、これ以降は放出を行わないよう求めたものだ。
汚染水放出、海洋環境保護を…中国が要求
(2011年4月8日17時57分 読売新聞)
【北京=大木聖馬】中国外務省の洪磊・副報道局長は8日、福島第一原発事故で東京電力が放射性物質を含んだ汚染水を海に流したことについて、「日本側から正式な通知があった。日本の近隣国として、我々は当然懸念を表明する」との談話を発表した。
洪副局長は、「日本が関連の国際法に照らして、適切な措置を取って海洋環境を保護するよう希望する」と求め、今後も「適宜、全面的で正確に関連情報を通知する」よう要求した。
ところがびっくり、ここでも日本はアメリカの植民地の面目躍如、周辺諸国には黙っていたくせに遠く離れたアメリカにだけは許可を取っていたようです。
海へ放水 米、3日前に内諾
2011年4月8日 朝刊(東京新聞)
東京電力福島第一原発から低濃度放射性物質を含む汚染水を海へ放出するにあたり、政府が事前に米国側と協議し、内諾を得ていたことが分かった。米国政府関係者が一日に政府高官と面会したり、東電での関係者間の対策会議に参加したりする中で「米国は放出を認める」と意向を伝えていたという。
汚染水放出をめぐっては、韓国や中国、ロシアなどが「事前説明がなかった」と批判している。日本政府は放出発表後に各国に報告したが、放出を始めた四日の三日前に米国とだけ協議していたことで反発が強まる可能性もある。
日本側関係者によると、米エネルギー省の意を受けた同省関係者が日本人研究者とともに一日、官邸で政府高官と面会。「汚染水を海に放出し、早く原子炉を冷却できるようにしないといけない。放射性物質は海中に拡散するので問題ない。米政府は放出に抗議しない」とのメッセージを伝えたという。
政府関係者によると、東電本社内で開かれた政府や米国大使館による対策会議でも、米側から海洋投棄を認める発言があった。
官邸筋は「海に流すのを決めたのは、日本政府の原発チーム。米政府の依頼によるものではない」と説明。一方で「米側から『大丈夫だ』という話はあった」と話している。
他の近隣国に事前に説明しなかったことについて、枝野幸男官房長官は六日の記者会見で「私が指示すべきだったと反省している」と陳謝している。
許可を取るなら影響が及ぶ周辺諸国に真っ先にとるべきでしょうに、アメリカ様のご意向さえ伺えば周辺諸国なんか無視してOKってことですねわかります。実に一貫したすばらしい外交方針ですね!(皮肉)
もはやモラルは麻痺して地に落ちました。
日本は環境破壊の加害国と認定されても仕方がありません。とてもでないけれど、放射性物質を海洋投棄したロシアのことを非難できた筋合いではありません。
Ⅲ.モラルが崩壊していると非難されても仕方がない日本のマスコミは「放出の影響について、東電は、近隣の魚類や海藻などを毎日食べ続けるとしても、成人の実効線量は年間0・6ミリ・シーベルトで、自然界から受ける年間線量の4分の1だとしている。」という東電の眉唾な安全宣言を無批判に垂れ流すだけですが、フランスのル・モンド紙は次のような批判と警鐘を行っています。
それをブログ「イル・サンジェルマンの散歩道」から引用させていただきましょう。
なぜ日本の大手マスコミはこういうことを書かないのか、ふがいなくて仕方ありません。国民の健康や海洋汚染で世界に迷惑をかけていることなどどうでのいいのでしょうか?
海への放出は、永続的な汚染を招く―ル・モンド紙4月7日付
福島原発の土壌および海洋の汚染を押さえる解決策をいくつか示した東京電力は、11,500トンの放射能汚染の水を海に放出することを決めた。「我々は、この地方、そして関連する地方に心から申し訳なく思う」と責任者が、この排水が許可された限界値を約100倍超えることを明らかにしながら、表明した。
日本政府は、他の解決策はなく、東京電力は、原子炉の冷却に使ったさらに高濃度の水を貯水するために、敷地を確保するしかなかったことを明らかにした。
数日前から、原発の近くの海水を測定したところ、海洋環境へのおびただしい汚染を示すものであると、フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)が指摘した。
これらの溶解性の放射性元素のいくつかは、海流によって運ばれ、拡散する。その他は定着する傾向がある。放射性元素は* 、「何年も存続するであろう」。その結果、「いくつかの植物種あるいは動物種は、目で確認できるほど汚染されるであろう」フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)は、最も影響がある日本沿岸の海域でとれた海産物の、放射能監視のプログラムを実施する必要があるとの見解を示した。
* 時間とともに放射性崩壊して放射線を発する。
こちらでも少し触れましたが、だいたい100倍が低濃度って誰が決めたのでしょう?東電が自分たちに都合のいいように勝手に自称してるだけではないのですか?
東電が今までやってきたことを考えれば、とてもじゃないけれど東電の安全宣言など信じる気にはなれません。
汚染水の放出は沿岸の自治体や漁業関係者だけの問題ではありません。
私たちの食卓に欠かせない海産物が紛れもなく放射能で汚染されたのに、いえ、日本の食卓だけでなく世界の食卓に上る海産物日多大な不安をもたらしたのに、なぜみんなもっと怒らないのでしょうか。
漁業関係者は死活問題ですから激高したものの、相変わらずマスコミも世論も静か。もはや感覚が麻痺してきたのでしょうか。これから先時間をかけて放射能は食物連鎖により濃縮されていくのに、どうして安心していられるか不思議です
せめて日本のマスコミがル・モンド紙が警鐘を鳴らした程度のことをもっと大きく報じれば、あるいは国民の反応もこんなに鈍くはなかったかもしれませんが・・
この国は自分たちが地球規模の環境破壊をしているのだという自覚が乏しくなり、モラルが失墜したと言わざるを得ないのではないでしょうか。このままでは日本が完全に信用を失うのも時間の問題かも知れません。
(続く)
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