「地域主権改革」の正体~自由法曹団意見書より・その2
- 2010/12/25
- 04:00
読みやすさのため内容を変えない程度に若干文章を変えたところもあります。青字は当該エントリーの内容に該当する項目です。赤字、太字による強調は私です。
最後の続きの部分で、菅内閣が打ち出した9つの課題に沿ってまとめてみました。そうすれば現政権がすすめようとしている地域主権改革のトンデモがより分かりやすいと思います。
はじめに
第1 「地域主権改革」の動向と主な内容
第2 憲法の福祉国家理念の破壊(問題点1)
第3 地方自治とくに住民自治の形骸化(問題点2)
第4 地方財政の充実は実現しない(問題点3)
第5 公務員の重大な権利問題(問題点4)
第6 急がれる国民的反撃
(官内閣が揚げた9つの課題)
①義務付け・枠付けの見直し、
②基礎自治体への権限移譲、
③国の出先機関の原則廃止、
④ひも付き補助金の一括交付金化、
⑤地方税財源の充実確保、
⑥直轄事業負担金の廃止、
⑦地方政府基本法の制定(地方自治法の抜本見直し)
⑧自治体間連携・道州制、
⑨緑の分権改革の推進、
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第3 地方自治とくに住民自治の後退(問題点2)
1 事務押しつけで財源の乏しい自治体は壊滅(「基礎自治体への権限委譲」)
「大綱」は、「住民に最も身近な行政主体である基礎自治体に事務事業を優先的に配分し、基礎自治体が地域における行政の自主的かつ総合的な実施の役割を担えるようにする」とし、市町村合併により「市町村では行政規模や能力の拡充が図られ」たとする。しかし、市町村合併で中心地域と周辺地域との格差が拡大し、住民意思の地方政治への反映は後退している。また財源の裏付けのないままさらに事務を基礎自治体に担わせれば、財源の乏しい地方自治体は壊滅する。
2 住民の声が届かない首長本位の地方自治体づくり(「地方政府基本法」)
(1)ねらわれている地方議会の形骸化
(略)想定される「改革」の方向は、住民の声が届かない首長本位の地方自治体への改変である。
(2)住民の声が届かない「少人数議会」(議員定数の法定上限の撤廃)
継続審議となっている関連3法案のうち地方自治法一部改正案(第174回国会提出)では、地方公共団体の議会の議員定数について、上限数を人口に応じて定めている規定を撤廃するとしている。そもそも現行地方自治法が法定数を規定したのは、多様な住民意思を地方政治に反映させるという、議会制民主主義の根幹を支える趣旨である。住民の意思の直接の反映が不十分になれば、それは福祉施策の低下に直結する可能性が大きい。
市議会議員の半減を公約して議会と対立する河村名古屋市長、大阪府と大阪市の統合を訴える橋下大阪府知事は、いずれもテレビ・新聞等のマスメデイアを通じて頻繁に取り上げられて高い支持率を維持し、他方で福祉施策の削減を続けている。住民の声が直接届けられる地方議会から、マスメデイアを通じて首長の権限を強大化させる地方政治への改変の先取りをしている事例である。
(※国会議員の定数削減と同じく、議員の数が減らされれば、それだけ多様な民意の反映、特に少数意見の反映は遠のく)
(3)地方議会への小選挙区制の導入
「地方自治法抜本改正に向けての基本的な考え方」では(略)政策本位、政党本位の選挙制度に変更すべきではないか」を検討するとされているが、これは、地方議会にも、国会で導入されている小選挙区制を導入することを検討するという意味である。
しかし、小選挙区制は、(略)民意の公正な反映のできない選挙制度である。国会についても小選挙区制を見直す方向での改革が求められているのであり、地方議会にも小選挙区制を広げることは、住民の意思の反映を後退させるものであり、とうてい許されない。
(4)行政機関等の共同設置
地方自治法一部改正案(第174回国会提出)では(略)行政機関等の共同設置を可能にしようとしている。
(略)これは、市町村合併に類似した行政機関の統廃合であり、地方自治体の住民の需要にきめ細かく対応することは、著しく困難になるであろう。
(5)二元代表制の修正
「地方自治法抜本改正に向けての基本的な考え方」では、「基本構造」として、二元代表制の修正も地方自治体が選択し得ること等を検討するとされている。二元代表制とは、地方議会が住民から直接選挙されて住民の意思を反映するとともに、首長も住民から直接選挙され、二元的な代表が相互に緊張関係を保って地方政治を運営するあり方である。
首長は執行機関として地方自治体においてただ一人選ばれ、地方政治をめぐる単一の争点について住民の意思のいずれが多数であるかを託すことはできるが、地方政治全般の多岐にわたる問題については、地域住民の各層の意思を代表する地方議会において討論と議決を通じて決定される必要がある。したがって、地方自治体の多様な住民の声を地方政治に反映させるという観点からは、地方議会の権能と役割は、十二分に尊重されなければならない。
もし、一部の地方自治体においてみられるように、テレビ等に頻繁に取り上げられる首長が、地方議会を形骸化して施策を推進する意図で二元代表制の見直しを進めることになれば、地方自治体における少数派の意見は地方議会を通して反映させることが困難になるおそれが大きい。
第4 地方財政の充実は実現しない(問題点3)
1 地方自治体の財源は充実しない(「地方税財源の充実確保」)
(略)地方税財源が充実確保される見込みはまったくない。
また、財源確保をしようとすれば、2010年参議院選挙で民主党の敗北の原因となった、消費税増税などがねらわれることになる可能性が大きい。
2 国の施策の経済効果も縮小(「直轄事業負担金の廃止」と国の事業の縮小)
直轄事業負担金について「大綱」は、「維持管理に係る負担金制度を廃止(特定の事業に係るものは平成23年度に廃止)した」とし、都道府県の負担を減らしたとする。しかし、これにともない国の事業も縮小されることが予想される。
もし国の事業が縮小されれば、これによる経済効果も縮小することを意味するものであり、地方経済への打撃も小さくない。
地方経済の再生のためには、大企業から中小企業・農林水産業・労働者への所得再分配や、東京から地方への財政の再分配を、政策として実行することが必要である。労働分野では労働者保護の強化、産業政策では輸出型機械工業支援から中小企業保護・環境保護と結びつけた農林水産業支援や福祉労働の地位向上などの具体化が必要である。こうした、真に求められる地域経済の活性化策の具体化が急がれる。
→財源の裏付けのないままさらに事務を基礎自治体に担わせれば、財源の乏しい地方自治体は壊滅する。
●直轄事業負担金の廃止
→これにともない国の事業も縮小されることが予想される。
もし国の事業が縮小されれば、これによる経済効果も縮小することを意味するものであり、地方経済への打撃も小さくない。
●地方政府基本法の制定(地方自治法の抜本見直し)に含まれる項目
→議員定数削減、小選挙区制導入という、国政での過ちを地方で繰り返そうとしている。
地方議会を形骸化させ、知事の権限が相対的に強化されると、少数意見が反映されにくくなる。
住民の声が届かない首長本位の地方自治体への改変である。
「地域主権」とは「知事主権」ではないか?
(続く)
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