名張毒ぶどう酒事件・4夜連続特番その3~黒と白~(2008年放送)
- 2010/12/20
- 03:00
「黒と白」は主に自白がテーマです。
************
Ⅰ
奥西さんは鈴木弁護団長への手紙に連日連夜の取調の様子を次のように綴っている。
「夜は警察官二名が自宅まで付き添ってきて身辺を拘束状態で、便所に行くにも付き添って便所の戸をあけてやれと命ぜられ、夜も一晩中寝ている枕元で警察官が座り番をしていた。」
「辻井取調官から、今日は家族の者が村落民によって迫害を土下座して謝罪せよと言われ、大変苦しんでいる。家族の者を救うためには、お前が早く犯人だと自白することより他にないのだと言って、自白を強要された。」
だが「最初に整然と自白したんだから奥西が犯人で間違いない。」と今も村人達は口を揃えて言う。
「やってないなら謝罪だってするはずはない」というのは、奥西さんと同じように取調を受けた当時の会長だ。
しかしそういう会長も自白に追い詰められそうになった体験をしている。
Ⅱ
奇妙なことに、事件から3週間後突然村人達の供述が変わっていったことは~証言~でも紹介した。
まるで奥西さんが犯人であることにつじつまを合わせるかのようであった。
例えば、会長宅にぶどう酒を届けた時間が午後2時過ぎから5時頃に変わったAさんの供述につじつまを合わすために、Aさんが弁当屋に折り詰めを取りに来たのを午後5時過ぎだったと言う弁当屋の店員の供述を変えねばならない。(会長宅と弁当屋は6キロ離れている)
検察官は次のように尋問、誘導する。
検察官「時計が狂ったりしたようなことはないのか」
「まあ重い自動車なんかが通りますと地震が揺すったように揺れます。」
検察「そういうこともあって時計が狂ったようなこともあったかもしれん。こういうことですか。」
「はい。」
(んな強引な・・・)
結局「Aさんが来たのは午後6時頃、店の時計は時間狂っていた」という供述内容に変えられる。(他の供述もこういう強引な誘導で変わっていっている)
「村の人達も被害者だと思う」と鈴木弁護士は言う
「最初正直に言ったつもりなのに、あとからお前違うじゃないかと警察検察から言われる。警察検察の意向通りの供述をしないといつまでたっても取調から許してもらえない、という状況はあったと思う。」
警察の望む供述に誘導され、その通りにしないとかえしてもらえないということはよくあることだ。
(追記:今朝もこのような報道が。郵便不正事件「供述誘導あった」…最高検検証 読売新聞)
こういう毒殺事件の犯人は女が多い、そう警察に誘導されて奥西さんは一旦は「私は妻が農薬をぶどう酒に入れている現場をみました。」と供述している。
自白して謝罪してるんだから奥西が犯人に間違いないという会長自身もそういう目に遭っている。
会長も警察に取り調べられたとき、妻と実母の仲が悪かったことを追及され、本心ではそう思っていないのに「自分の妻が犯人かもしれない」という供述を誘導されてしまったという。
そして会長も厳しい取り調べに耐えきれず、思わず自分が犯人だと自白しそうになっている。
富山の冤罪、氷見事件の柳原さんも、いくらやってないといっても聞き入れられず自白に追い込まれた。
行ったことのない現場の見取り図は、鉛筆を持った柳原さんの手を上から握って警察官が書いた。
何故やっていないのに自白に追い込まれるか、それはああいう取調を受けた人間でなければわからないと柳原さんは言う。
Ⅲ
2005年、名古屋高裁の小出裁判長は
「犯行に使われた毒物はニッカリンTではなかった疑いが強く、奥西の自白は重大な疑問がある」
として再審開始決定を出した。
しかし検察の異議申立を受け、2006年、同じ名古屋高裁の門野裁判長は開始決定を取り消す。
小出裁判長が認めた科学的根拠を否定し、「請求人(奥西さん)が、自らが極刑となることが予想される重大犯罪について、このように、自ら進んで、あえてうその自白をするとは考えられない」とした。
記者会見で弁護団は怒りを隠せない。
「圧倒的に自白に依拠していますこの判決は。過去の冤罪事件のことを知らないんです、この裁判官は。」
本当にやってない人間は、もしここで虚偽の自白したら大変なことになるとは夢にも思わない。ここは一旦認めておいてやり過ごし、あとから本当のことを訴えようと考える。自分はやってないんだから裁判官が有罪にするはずがないとしか思えないのだ。
「死刑になることを全く考えなかった。自白しても村の人達が私の無実を明かせてくれると信じていた。」と奥西さんは言っている。
(以上、番組内容要約)
************
次の「毒とひまわり」で足利事件の菅家さんも、
「(犯罪を)おこした人は無期になるとか死刑になるとか考えるけれど、無実の人はそういう頭は全然無いですよ。死刑も無期も全然考えません」
と言っています。
布川事件の桜井さんは
「とにかく目の前の苦しさから逃れたかっただけなんですよ。その取調の実態を裁判官は知らなさすぎる。」
再審請求を蹴ってきた裁判官が、過去に裁判所が生み出した冤罪からいかに何も学んでいないか、唖然とします。
自白についてあまりにも知らなすぎるまま自白に依拠しつづけるから冤罪が産まれると言っても過言ではないと思います。
冤罪は裁判官の無知と怠慢に基づく犯罪だという言い方ができるでしょう。
再審開始取り消し決定が出たとき私はこちらの記事でこう書きました。
こんな風に有罪確定判決をえこひいきするなら、もう氷見事件のように真犯人が出てこない限り再審などありえません。
(続く)
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Ⅰ
奥西さんは鈴木弁護団長への手紙に連日連夜の取調の様子を次のように綴っている。
「夜は警察官二名が自宅まで付き添ってきて身辺を拘束状態で、便所に行くにも付き添って便所の戸をあけてやれと命ぜられ、夜も一晩中寝ている枕元で警察官が座り番をしていた。」
「辻井取調官から、今日は家族の者が村落民によって迫害を土下座して謝罪せよと言われ、大変苦しんでいる。家族の者を救うためには、お前が早く犯人だと自白することより他にないのだと言って、自白を強要された。」
だが「最初に整然と自白したんだから奥西が犯人で間違いない。」と今も村人達は口を揃えて言う。
「やってないなら謝罪だってするはずはない」というのは、奥西さんと同じように取調を受けた当時の会長だ。
しかしそういう会長も自白に追い詰められそうになった体験をしている。
Ⅱ
奇妙なことに、事件から3週間後突然村人達の供述が変わっていったことは~証言~でも紹介した。
まるで奥西さんが犯人であることにつじつまを合わせるかのようであった。
例えば、会長宅にぶどう酒を届けた時間が午後2時過ぎから5時頃に変わったAさんの供述につじつまを合わすために、Aさんが弁当屋に折り詰めを取りに来たのを午後5時過ぎだったと言う弁当屋の店員の供述を変えねばならない。(会長宅と弁当屋は6キロ離れている)
検察官は次のように尋問、誘導する。
検察官「時計が狂ったりしたようなことはないのか」
「まあ重い自動車なんかが通りますと地震が揺すったように揺れます。」
検察「そういうこともあって時計が狂ったようなこともあったかもしれん。こういうことですか。」
「はい。」
(んな強引な・・・)
結局「Aさんが来たのは午後6時頃、店の時計は時間狂っていた」という供述内容に変えられる。(他の供述もこういう強引な誘導で変わっていっている)
「村の人達も被害者だと思う」と鈴木弁護士は言う
「最初正直に言ったつもりなのに、あとからお前違うじゃないかと警察検察から言われる。警察検察の意向通りの供述をしないといつまでたっても取調から許してもらえない、という状況はあったと思う。」
警察の望む供述に誘導され、その通りにしないとかえしてもらえないということはよくあることだ。
(追記:今朝もこのような報道が。郵便不正事件「供述誘導あった」…最高検検証 読売新聞)
こういう毒殺事件の犯人は女が多い、そう警察に誘導されて奥西さんは一旦は「私は妻が農薬をぶどう酒に入れている現場をみました。」と供述している。
自白して謝罪してるんだから奥西が犯人に間違いないという会長自身もそういう目に遭っている。
会長も警察に取り調べられたとき、妻と実母の仲が悪かったことを追及され、本心ではそう思っていないのに「自分の妻が犯人かもしれない」という供述を誘導されてしまったという。
そして会長も厳しい取り調べに耐えきれず、思わず自分が犯人だと自白しそうになっている。
富山の冤罪、氷見事件の柳原さんも、いくらやってないといっても聞き入れられず自白に追い込まれた。
行ったことのない現場の見取り図は、鉛筆を持った柳原さんの手を上から握って警察官が書いた。
何故やっていないのに自白に追い込まれるか、それはああいう取調を受けた人間でなければわからないと柳原さんは言う。
Ⅲ
2005年、名古屋高裁の小出裁判長は
「犯行に使われた毒物はニッカリンTではなかった疑いが強く、奥西の自白は重大な疑問がある」
として再審開始決定を出した。
しかし検察の異議申立を受け、2006年、同じ名古屋高裁の門野裁判長は開始決定を取り消す。
小出裁判長が認めた科学的根拠を否定し、「請求人(奥西さん)が、自らが極刑となることが予想される重大犯罪について、このように、自ら進んで、あえてうその自白をするとは考えられない」とした。
記者会見で弁護団は怒りを隠せない。
「圧倒的に自白に依拠していますこの判決は。過去の冤罪事件のことを知らないんです、この裁判官は。」
本当にやってない人間は、もしここで虚偽の自白したら大変なことになるとは夢にも思わない。ここは一旦認めておいてやり過ごし、あとから本当のことを訴えようと考える。自分はやってないんだから裁判官が有罪にするはずがないとしか思えないのだ。
「死刑になることを全く考えなかった。自白しても村の人達が私の無実を明かせてくれると信じていた。」と奥西さんは言っている。
(以上、番組内容要約)
************
次の「毒とひまわり」で足利事件の菅家さんも、
「(犯罪を)おこした人は無期になるとか死刑になるとか考えるけれど、無実の人はそういう頭は全然無いですよ。死刑も無期も全然考えません」
と言っています。
布川事件の桜井さんは
「とにかく目の前の苦しさから逃れたかっただけなんですよ。その取調の実態を裁判官は知らなさすぎる。」
再審請求を蹴ってきた裁判官が、過去に裁判所が生み出した冤罪からいかに何も学んでいないか、唖然とします。
自白についてあまりにも知らなすぎるまま自白に依拠しつづけるから冤罪が産まれると言っても過言ではないと思います。
冤罪は裁判官の無知と怠慢に基づく犯罪だという言い方ができるでしょう。
再審開始取り消し決定が出たとき私はこちらの記事でこう書きました。
今回弁護側は、原判決が凶器とした農薬が奥西氏の自白のニッカリンTではなく、別の農薬であったことを疑わせる科学的実験結果を出した。
しかし、裁判所の言い分はこうだ。
「ひょっとして違う条件下だったら、ニッカリンTでも弁護側が出してきた実験結果(※ペーパークロマトグラフにニッカリンTなら現れるはずのスポットが現れない)が出るかもしれないでしょ?ニッカリンTじゃないと言い切れる可能性は100%ではないんじゃない?
だったらニッカリンTだったと認定したっていいでしょ」
被告人に不利な方へとこじつける様な解釈。
こんな認定方法だったら、無実の証明など事実上不可能ではないか
疑わしきは被告人の利益に、の鉄則に従えば、
「農薬はニッカリンTでなかったとの合理的な疑いをはさむ余地が出てきた。従って、自白通りニッカリンTだと認定することはできない」
との判断になるはずなのだ。
こんな風に有罪確定判決をえこひいきするなら、もう氷見事件のように真犯人が出てこない限り再審などありえません。
(続く)
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