「地域主権改革」の正体~自由法曹団意見書より・その3
- 2010/12/25
- 17:00
はじめに
第1 「地域主権改革」の動向と主な内容
第2 憲法の福祉国家理念の破壊(問題点1)
第3 地方自治とくに住民自治の形骸化(問題点2)
第4 地方財政の充実は実現しない(問題点3)
第5 公務員の重大な権利問題(問題点4)
第6 急がれる国民的反撃
(官内閣が揚げた9つの課題)
①義務付け・枠付けの見直し、
②基礎自治体への権限移譲、
③国の出先機関の原則廃止、
④ひも付き補助金の一括交付金化、
⑤地方税財源の充実確保、
⑥直轄事業負担金の廃止、
⑦地方政府基本法の制定(地方自治法の抜本見直し)
⑧自治体間連携・道州制、
⑨緑の分権改革の推進、
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第5 公務員の重大な権利問題をもたらす(問題点4)
1 公務員の大量解雇(「自治体間連携・道州制」)
「地方分権」改革を「地域主権」改革と衣替えして進めた先には、道州制による国と地方のつくりかえが構想されている。国の出先機関の地方移管や民営化の先にある道州制について財界は、「究極の構造改革」という。
(略)、「日本経団連の試算では、道州制の導入を前提とすれば、これに加え6万6千人弱の職員が都道府県や市町村に転籍」し地方では「国から転籍した職員および地方公共団体職員のうち3万3千人弱は定員削減が可能」で「労働市場を通じて民間企業に活躍の場を求める公務員も相当数にのぼることになろう」としている。「労働市場を通じて民間企業に活躍の場を求める」公務員とは、要するに免職するということである。これは、2009年末に大量に分限免職された社会保険庁職員のような事態が、国や地方で広がることを意味している。
社会保険庁の後にも、独立行政法人雇用能力開機構の廃止法案では、これまで機構が行ってきた業務を別組織に承継させながら、職員の雇用については本人の意思の如何を問わず承継させないとするしくみを含んでおり、承継されない者についての雇用を一方的に奪うことになるおそれがある。このような法制は、解雇制限法理に反するばかりか、国際的にも認められている雇用保障のルールに反し許されないものである。
2 地方公務員の直接請求署名活動への罰則新設は許されない(関連3法案)
継続審議となっている「地域主権改革」関連3法案のうち、地方自治法の一部改正には、「直接請求制度の改正」として、「(1)直接請求代表者の資格制限の創設」という、2009年11月18日最高裁判決を受けた直接請求代表者の資格制限規定に加え、地方公務員の直接請求署名活動に刑罰を新設する内容が含まれている。この罰則の新設は、表現の自由を侵すものであり、許されない。
署名活動の自由は、住民の意思を社会的に表現する行為として、憲法21条により保障されており、しかも他のすべての人権保障を監視する意義を有する優越的地位のある人権であるとされている。この自由は、署名をする側であっても、署名を依頼する側であっても、等しく保障されるべきものであるし、直接請求においてもこの理はそのまま妥当する。
地方公務員も、一市民として基本的人権を享有しているし、地方自治体の施策をめぐるさまざまな施策について、一定の意見を持ち、署名をしたり署名を依頼する自由を有している。これは、直接請求においても同様である。
ところで「地位利用」と言っても、地方自治体の施策は多岐におよび、地方公務員の職務も広範であり、住民の利害関係もまた錯綜しているので、何が「地位利用」にあたるのかは、漠然としている。そして、もしこのような理由で規制するとすれば、過度に広範な表現の自由の規制をもたらすことになるし、刑罰をもって禁圧することは、これによる萎縮効果もはかり知れないほど大きい。
仮に「地位利用」による直接請求の署名運動について、一定の規制をすることが必要であり有効であるとしても、これに刑罰を科することは、不要であり、必要最小限度の規制とは言えない。
2010年3月29日、東京高裁は、社会保険事務所職員(事件当時)が休日に政党機関紙をマンションの郵便受けに配布した行為を国家公務員法(政治的行為の禁止)に違反するとした一審の有罪判決を破棄し無罪とする判決を言い渡した。
この中で判決は、配布行為は、その態様や国民の法意識に照らせば、行政の中立的運営及びそれに対する国民の信頼という保護法益を抽象的にも侵害するものとは考えられず、したがって、このような配布行為に罰則規定を適用することは国家公務員の政治活動の自由に対し、必要やむを得ない限度を超えた制約を加えるもので憲法21条及び31条に違反するとした。このように、国家公務員の政治的行為についても表現の自由を保障する観点から違憲判決も下されるに至っているのであるから、地方公務員の直接請求における署名運動への罰則の新設は、時代に逆行するものである。
第6 急がれる国民的反撃
「地域主権改革」は、地方の自由を拡大するかの言葉をもてあそびながら、実際には財源の拡充の具体策はなく、結局のところ国の負担を削減して財政力の乏しい地方自治体と国民に壊滅的な打撃となるものである。すでに、保育、障害者福祉、労働行政など、正体が知られた分野では、怒りが広がりつつある。
しかし、「地域主権改革」を支持する論調がマスメデイアにも広く流されており、個々の分野において、たとえば福祉・保育の基準の緩和など、個別の政策として提起されれば関係者の反対によってとうてい実現不可能な政策が、「地域主権」という看板をかけるだけで反対がしにくいという様相を呈している。
自公政権の「構造改革」と民主党政権の「地域主権改革」で破壊されつつある福祉国家理念にあらためて光を当て、新しい福祉国家のかたちを対置していくことが求められている。
(以上)
この中に、憲法に逆行するような公務員の人権制約規定がもりこまれているとは驚き。
●自治体間連携・道州制
道州制の導入によって雇用ルールに反した公務員の解雇が続出するだけでなく、公務員数が減ることによって住民への行政サービス低下、仕事の激務化、労働環境の悪化、それに伴う官製ワーキングプアも更に出ると思われる。公的機関が先頭に立ってこういう雇用ルールに反するリストラをすれば、それは民間にも更に蔓延するのではないか。公務員叩きは、こういうブーメランとなってかえってくる。
以上、自由法曹団の意見書を読むと、やはり民主党が進めようとしているこの地域主権改革は阻止しなければいけないと思いました。
ポピュリスト首長達が「地域主権改革」の広告塔になって、地方の自由や地方自治を強化するような誤ったイメージをふりまいていますが、それは財界の先兵として動いているにすぎないことがよくわかります。
「地方分権」という言葉だけはポピュリスト首長の顔とともに広く世に知れ渡りましたが、それがいったいどういうものなのかはまだまだ知られていないし、警戒も薄いように思います。
知らないうちに手遅れになって身動きとれなくなってしまわないよう、今後もしっかり見て行かなくてはいけないと思いました。
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