暴力の被害者を匿名にせねばならない現実
- 2013/02/08
- 10:00
<女子柔道暴力>女子選手側の声明文全文 毎日新聞 2月4日(月)21時17分配信 より
皆様へ
このたび、私たち15人の行動により、皆様をお騒がせする結果となっておりますこと、また2020年東京オリンピック招致活動に少なからず影響を生じさせておりますこと、まずもっておわび申し上げます。私たちがJOCに対して園田前監督の暴力行為やハラスメントの被害実態を告発した経過について述べさせていただきます。
私たちは、これまで全日本柔道連盟(全柔連)の一員として、所属先の学校や企業における指導のもと、全柔連をはじめ柔道関係者の皆様の支援をいただきながら柔道を続けてきました。このような立場にありながら、私たちが全柔連やJOCに対して訴え出ざるを得なくなってしまったのは、憧れであったナショナルチームの状況への失望と怒りが原因でした。
指導の名の下に、または指導とはほど遠い形で、園田前監督によって行われた暴力行為やハラスメントにより、私たちは心身ともに深く傷つきました。人としての誇りをけがされたことに対し、ある者は涙し、ある者は疲れ果て、またチームメートが苦しむ姿を見せつけられることで、監督の存在におびえながら試合や練習をする自分の存在に気付きました。代表選手・強化選手としての責任を果たさなければという思いと、各所属先などで培ってきた柔道精神からは大きくかけ離れた現実との間で、自問自答を繰り返し、悩み続けてきました。
ロンドン五輪の代表選手発表に象徴されるように、互いにライバルとして切磋琢磨(せっさたくま)し励まし合ってきた選手相互間の敬意と尊厳をあえて踏みにじるような連盟役員や強化体制陣の方針にも、失望し強く憤りを感じました。
今回の行動を取るに当たっても、大きな苦悩と恐怖がありました。私たちが訴え出ることで、お世話になった所属先や恩師、その他関係者の皆様方、家族にも多大な影響が出るのではないか、今後、自分たちは柔道選手としての道を奪われてしまうのではないか、私たちが愛し人生をかけてきた柔道そのものが大きなダメージを受け、壊れてしまうのではないかと、何度も深く悩み続けてきました。
決死の思いで、未来の代表選手・強化選手や、未来の女子柔道のために立ち上がった後、その苦しみはさらに深まりました。私たちの声は全柔連の内部では聞き入れられることなく封殺されました。その後、JOCに駆け込む形で告発するに至りましたが、学校内での体罰問題が社会問題となる中、依然、私たちの声は十分には拾い上げられることはありませんでした。一連の報道で、ようやく皆様にご理解をいただき事態が動くに至ったのです。
このような経過を経て、前監督は責任を取って辞任されました。
前監督による暴力行為やハラスメントは、決して許されるものではありません。私たちは、柔道をはじめとする全てのスポーツにおいて、暴力やハラスメントが入り込むことに、断固として反対します。
しかし、一連の前監督の行為を含め、なぜ指導を受ける私たち選手が傷つき、苦悩する状況が続いたのか、なぜ指導者側に選手の声が届かなかったのか、選手、監督・コーチ、役員間でのコミュニケーションや信頼関係が決定的に崩壊していた原因と責任が問われなければならないと考えています。前強化委員会委員長をはじめとする強化体制やその他連盟の組織体制の問題点が明らかにされないまま、ひとり前監督の責任という形をもって、今回の問題解決が図られることは、決して私たちの真意ではありません。
今後行われる調査では、私たち選手のみならず、コーチ陣の先生方の苦悩の声も丁寧に聞き取っていただきたいと思います。暴力や体罰の防止はもちろんのこと、世界の頂点を目指す競技者にとって、またスポーツを楽しみ、愛する者にとって、苦しみや悩みの声を安心して届けられる体制や仕組み作りに生かしていただけることを心から強く望んでいます。
競技者が安心して競技に打ち込める環境が整備されてこそ、真の意味でスポーツ精神が社会に理解され、2020年のオリンピックを開くにふさわしいスポーツ文化が根付いた日本になるものと信じています。
2013年2月4日
公益財団法人全日本柔道連盟女子ナショナルチーム国際強化選手15人
「皆様をお騒がせする結果となっておりますこと、また2020年東京オリンピック招致活動に少なからず影響を生じさせておりますこと、まずもっておわび申し上げます。」
まずもってこういうエクスキューズから始まらなければならない風習を悲しく思います。一種の社交辞令というか枕詞なのかも知れませんが、権利主張をすることは周囲に迷惑を及ぼすワガママだととらえる日本的な悪しき感覚が根強いのでしょう。
そしてやはり柔道界内外からの嫌がらせや「東京五輪誘致に水を差す気か」という非難の声が寄せられることも十分考えられます。
実際今回の事で監督を降ろされた園田氏は、昨年園田氏の暴力被害を訴えた女子柔道選手に対し逆ギレしています。
園田前監督「余計なこと言ったな」、選手どう喝
http://www.yomiuri.co.jp/sports/news/20130206-OYT1T00027.htm
女子選手への暴力行為で辞任した園田隆二・全日本女子前監督(39)が、全日本柔道連盟(全柔連)の調査に暴行を認めた後の昨年10月下旬、海外遠征先で、最初に被害を訴えた選手を「余計なことを言いふらしているらしいな」などと、どう喝していたことが5日、明らかになった。
15人連名による集団告発にはこうした背景があった。
全柔連などによると、昨年9月下旬、1選手が実名で園田前監督の暴力行為を通報し、10月上旬に連盟幹部が事情を聞いた。前監督は大筋で通報内容を認めたが、10月下旬にブラジルで行われた国際大会に遠征した際、この選手を口頭で厳しく責め立てたという。
以前から園田前監督ら強化体制に不満を持っていた選手たちは、この話を伝え聞き、謝罪もせずに高圧的な態度を取る前監督への怒りを増幅させたという。全柔連は11月10日までに前監督に始末書を出させて沈静化を図ったが収まらず、選手たちは翌11日付で告発文書を作り、日本オリンピック委員会(JOC)に提出した。
選手側の代理人弁護士は、「現在、JOCなどが調査中なので詳細は控えるが、一連の流れについてもしっかり調べてもらえると思っている」としている。
(2013年2月6日07時46分 読売新聞)
声明文にもあったように、選手達の訴えに全柔連、JOCは真摯に対応しようとしませんでした。
マイミクさんのコメントをこちらに。
女子柔道選手達の声明文。まず謝罪の言葉から書き始めているのも悲しいが、そもそも匿名でなければならなかったこと自体がこの国らしいと思うし、悲しく思う。違法行為を指弾するのに身の危険すらあるのが日本という国だ。人権が必ずしも守られていない国の状況が見えてこないだろうか?
こんな中では被害者である選手達を守るべく匿名にしておくのが当然の判断だと思います。
しかるに、橋本聖子氏は「プライバシーを守ろうとする観点から、15人の選手が表に出ていないことをどう判断するかが非常に大きな問題だ」と指摘した。そのうえで「プライバシーを守ってもらいながらヒアリングしてもらいたいということは決して良いことではない」と述べました。
「被害者も名前を公表して訴える責任がある」ってどんな論理だよ?それってレイプ被害者に顔と名前を晒せって強要してんのと一緒だぜ。橋本聖子は何にもわかっていない。きっと体罰容認論者なんだろう。
とのマイミクさんの意見に私も賛成です。
この後橋本氏は「『氏名を公表すべき』とする発言はしていない。公表しないことに厳しい意見もあることから、どういう方法で選手を守り、経緯や事実を明らかにするか検討すべきという考えだ」と釈明するコメントを出していますが、先の発言は実名公表しろといってるようにしか受け取れませんね。往年の名選手のこういう体質を見るとガッカリです。
欧米では勇気ある告発をした人間は英雄として称えられ、全力で保護されます。しかしこの国では『和を乱す裏切り者』の烙印を押されます。それが昨今の各方面での凋落や倫理的堕落につながっているような気がします。
このコメントのとおり、勇気ある告発者に対するセカンドレイプを許す社会である限り、体罰という名の暴力の土壌はなくならないと思います。
暴力の被害者が匿名しなくてもいいような社会に変えていくことは体罰を許さない社会に体質を変えていくことでもあると思います。
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