「靖国合祀は死者に対する最大の冒涜である」～（「英霊か犬死か」靖国裁判原告の一人、崎原さんの言葉）

※（付記）このエントリーは前のエントリーでご紹介した番組「英霊か犬死か」を見た感想です。前エントリーにyoutubeがありますので是非ご覧下さい。


金城実さん
長崎原爆記念館の平和の母子像、読谷村チビチリガマの「世代を結ぶ平和の像」、100ｍ大レリーフ「戦争と人間」を創作した沖縄の彫刻家です。
金城さんのお父さんは金城さんがまだ赤ん坊の頃、戦死しました。「立派な日本人になれ」という遺言を残して。

今年の慰霊祭、たくさんの「怒」で迎えられた菅総理はこともあろうに「犠牲になってくれてありがとう」という究極のＫＹ発言をしました。
金城さんは言います。
「見てみろ沖縄の現実を。騙されて騙されて・・。俺に立派な日本人になれといった親父の遺言なんかくそくらえだ。」

「立派な日本人になれ」
悲しい言葉です。
戦前戦中、沖縄の人々は、差別されたくない、対等に扱われたい、そのために自分たちの祖先からの言葉や文化を蔑んで、自分たちを否定する日本に積極的に同化し、誰よりも立派な皇民となることによって自分たちを認めて貰おうとしました。
なんと悲しく虚しい努力でしょうか。
「立派な日本人」として本土防衛のためにあれほどの犠牲を強いられたというのに、沖縄は未だに米軍の基地に苦しめられています。これはいくら「立派な日本人」として沖縄がお国のために尽くしても、結局差別はなくならなかったということです。

差別し、犠牲を強要しておいて、それを「国のためにすすんで捧げた尊い犠牲」だとごまかし、あるいは「感謝」してさらなる犠牲を沖縄に求め続ける日本。
沖縄をいいように利用するだけ利用してきた（今も利用してる）日本。まるで「ヒモ」ですね。


戦前戦中、そして戦後も「国のための尊い犠牲に感謝する」という「騙し」の最大の中心が靖国神社でした。
ここで靖国について少し説明しておきましょう。
靖国神社は通常の神道とは異なる国家神道です。単に戦死者の安らかな眠りを祈り平和を願う場所ではありません。あくまで天皇のために命を差し出したとされる者だけを祭り讃える場所なのです。
従って、逆賊とされた西郷隆盛や大久保利通は明治維新で活躍したのに祭られていないし、同じ戦死者でも空襲で死んだ者は進んで天皇のために命を投げ出したわけではないとして、祭られないのです。

靖国では天皇のために死んだことを讃美して、遺族の悲しみを喜びや栄誉に昇華させます。そうすることで自分も天皇のために進んで命を捧げ、あそこに祭られたいと思うようになります。
靖国に祭られ「家族の死は無駄ではなかった。栄誉ある死であった」という癒しが与えられることで、遺族はその死を肯定的に捉え、国はその犯罪性を覆い隠すことができます。
これが靖国の果たす大きな「騙し」の役割です。
靖国は国民を皇国史観、軍国主義に駆り立てる精神的支柱だったのであり、決して戦死者の安らかな眠りを祈り、平和を祈る場所ではないことを私達は知っておく必要があります。

また、靖国の戦前と変わらない国家主義的で専制的な本質が垣間見えるのが、合祀の手続です。
靖国に合祀されるかどうかに関して、遺族の意向は一切考慮されません。合祀したとの通知もありません。そして合祀を取りやめて欲しいという要求にも一切応じないのです。
なんと一方的。
いやはや、「何様？」です。
お上がわざわざ栄誉を与えてやろうというのだ、それに異を唱えることなどゆるさぬ、ありがたく頂戴しろというわけですね。こういう高飛車な押しつけを普通「感謝を捧げる」とは言いません。


途方もない犠牲を出した沖縄を丸め込み絡め取るため国が取った方策が、援護法の適用と沖縄戦で亡くなった住民を靖国に祭ることでした。
国は唯一の地上戦だからということで援護法の適用を沖縄に拡大しました。これが沖縄戦を歪め、住民の間に対立をもたらすことになったのです。

援護法は戦争の犠牲となった者に対する補償という性質の法ではありません。軍の作戦に協力した者なら、戦闘参加者、準軍属として援護金を与えようという性質のものです。従ってなかには「軍の作戦に積極的に協力したとまでは言えない」として却下されるケースも出てきます。援護法でお金がもらえる人、もらえない人が出てくれば、当然感情的対立も生まれます。
「立派な日本人になれば差別もなくなる」と信じて住民を戦争に駆り立てたいわば加害者的立場にいた金城さんのお父さん。その金城さんの遺族は援護法でお金がもらえるのに、何故駆り立てられた側の自分たちはお金がもらえないのか、と。
こういう「札束による分断手法」は、今現在も政府によって続けられていますね。

唯一の地上戦だから沖縄には特別な考慮をするというのならば、どの犠牲者だって同じく補償の対象としなくてはならないはずです。だから本当は援護法の適用拡大なんかではなく、犠牲となった全員が補償される戦後補償という法的性質をもった法を作って適用すべきだったのです。なのに何故援護法を適用したのでしょうか。

援護法の適用を見ていくと、そのデタラメぶりに開いた口がふさがらなくなります。
軍に食料を強奪されたり、豪から追い出され砲弾の飛び交うまっただ中に放り出されて殺された住民は「軍に協力した者」に化けてしまい、
集団強制死した住民やスパイ容疑で虐殺された住民も「軍の機密を守るために自ら進んで協力した者」に化けてしまっています。
軍による虐殺＝「軍に対する協力」なんだそうです！
驚くべき事実のねじ曲げ方ですね。でもこれによって軍が犯したこれらの犯罪行為はいつの間にか見事に不問に付されています。

こうして軍の犯罪性を覆い隠し、靖国に祭り英霊であると讃えることで、その死を誇りに思わせ、沖縄戦を美化させる。
これが援護法を沖縄に適用し、6万もの沖縄の民間人を靖国に祭った理由です。

死者は死してなお、国に都合のいいように利用され続けているーこれを「死者に対する最大の冒涜」と言わずして何と言うのでしょうか。
だから『戦死した父を「犬死」として、まずは国の付与した栄誉をひきはがすこと。そして戦争の本質を問い、繰り返さないことこそ、戦死した人の死を「犬死」にしない唯一の道』なのです。

靖国の合祀を取り消すよう訴えているのは沖縄の人々だけではありません。勝手に合祀された朝鮮人、台湾人の遺族もまた、合祀を取り消して欲しいと訴えています。
ここにもまた、靖国に祭ることで丸め込み黙らせようとした沖縄住民の合祀問題と同じ構図が見えます。
彼らの遺族も、祖国の尊厳は踏みにじられたのにも関わらず、自分の亡くなった家族が天皇の手先として褒め称えられ、大日本帝国が犯した犯罪性を覆い隠し丸め込むのに利用されるのはゴメンなのです。


「ここまで迫らないと沖縄戦が見えないし親父が見えないし未来の戦争が見えないからこそ、命がけでお袋と向き合って（靖国裁判に）切り込んだ」
と金城さんは言います。
しかし「ここまで迫り切り込む作業」は、沖縄の人々だけではなく私達全ての日本人が行うべき作業ではないでしょうか。
あの戦争で死んだ軍人、軍属を「英霊」と讃えることは、あの戦争の犯罪性を覆い隠すことになります。
だからもう、国が付与した栄誉である「英霊」という称号で讃えることをやめ、靖国とは何かを問い直すこと、そして戦争の本質を問い、繰り返さないことこそ、戦死した人の死を無駄にしない唯一の道だと私は思います。
私達一人一人が、戦前の日本の天皇制ファシズムとその精神的支柱であった靖国に迫らなくては、あの戦争の本質が見えないし、未来のあるべき民主主義が見えないのではないでしょうか。


こうしてみると、靖国は単なる政教分離の問題にとどまらないし、Ａ級戦犯を分離すれば済むという問題でもないことが解ります。
そんな程度の問題に矮小化されてはいけないのです。





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