広島地裁が橋下氏の光市弁護団懲戒請求発言に賠償命令の判決
- 2008/10/02
- 12:14
橋下知事:「光母子弁護団懲戒」TV発言で賠償命令
山口県光市の母子殺害事件(99年)を巡り、橋下徹弁護士(現・大阪府知事)のテレビ番組での発言で懲戒請求が殺到し業務に支障が出たなどとして、被告の元少年の弁護士4人(広島弁護士会)が計1200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2日、広島地裁であった。橋本良成裁判長は「橋下氏の発言と懲戒請求との間に因果関係があることは明らか」として橋下氏に原告1人当たり200万円、計800万円の支払いを命じた。視聴者の行為を促した発言が違法と認定されたことで、今後の番組制作や出演者のコメントに影響を与える可能性がある。
判決によると、橋下氏は昨年5月放送の情報バラエティー番組「たかじんのそこまで言って委員会」(読売テレビ)で光市事件の弁護団を批判。「許せないって思うんだったら一斉に弁護士会に懲戒請求をかけてもらいたい」などと発言し、4人に計2500件以上の懲戒請求が届いた。
原告側は、懲戒請求をする者はその根拠を調査・検討する義務があるのに、それを説明せずに呼びかけたのは違法▽自らの発言の影響力の大きさを認識していたはずなのに、多数の懲戒請求で業務に支障を生じさせ、弁護士の信用を傷付ける精神的苦痛を与えた--などと主張。一方、橋下氏側は「懲戒請求は(請求者の)自発的意志に基づくもの」として発言との因果関係を否定していた。
判決は、弁護士について「被告のため最善の弁護活動をする使命がある」とした上で、光市事件の弁護団について「被告人の意向に沿ったもので弁護士の品位を失う行動ではなく、懲戒の理由には当たらない」と認定。発言が原告の客観的評価を低下させたと名誉棄損を認めた。
多くの懲戒請求がなされたことについても「規模によっては一定の損害を与えることは可能。それを予見すべき場合には、請求を促すことが不法行為になる場合もある」と発言の違法性を指摘した。
日弁連によると、弁護団メンバーに対し07年末までに計8095件の懲戒請求があったが、各弁護士会は「適正な刑事弁護」と結論付け、懲戒しないことを議決している。【矢追健介】
▽橋下徹弁護士(大阪府知事)の話 地裁の判断は重く受け止める。表現の自由を巡る法解釈を誤っていた。ただ3審制ということもあり、控訴して高裁のご意見を伺いたい。
▽ 原告弁護団の児玉浩生弁護士の話 我々の主張が全面的に認められた。裁判所に刑事弁護での弁護士の役割を理解してもらえた。
<判決骨子>
◆名誉棄損にあたるか
懲戒請求を呼びかける発言は、原告の弁護士としての客観的評価を低下させる。
◆懲戒制度の趣旨
弁護士は少数派の基本的人権を保護すべき使命も有する。多数から批判されたことをもって、懲戒されることがあってはならない。
◆発言と損害の因果関係
発言と懲戒請求の因果関係は明らか。
◆損害の有無と程度
懲戒請求で原告は相応の事務負担を必要とし、精神的被害を被った。いずれも弁護士として相応の知識・経験を有すべき被告の行為でもたらされた。
◇「根拠ない請求」は違法=解説
テレビを通じて懲戒請求を促した発言の違法性が問われた裁判で、広島地裁は橋下氏が単なるコメンテーターではなく、懲戒請求の意味を熟知した弁護士だったことで極めて厳しい判断を示した。また光母子殺害事件報道についても、弁護団が「一方的な誹謗(ひぼう)中傷の的にされた」として苦言を呈した。
根拠がないことを知りながら懲戒請求するのは違法とした最高裁判決(07年4月)があり、個々の請求者には根拠を調査・検討する義務がある。原告側によると、今回の請求の中には署名活動感覚で出されたものが多く含まれていた。橋下氏は視聴者に呼びかけながら自らは請求しなかったが、判決は橋下氏が弁護士である以上「根拠を欠くことを知らなかったはずはなく、不法行為に当たる」と断じた。
弁護士法では、懲戒請求は弁護士の品位を保つためにあり、数を頼んで圧力を掛けることは想定していない。懲戒請求で弁護活動が萎縮(いしゅく)すれば被告の権利に影響が出る。それゆえ最高裁判決も「根拠のない請求で名誉、信用などを不当に侵害されるおそれがある」と請求の乱用を戒めている。
報道姿勢に関しては、問題の番組は録画にもかかわらず、発言をそのまま放送した。専門家は「弁護団の主張に違和感があっても、『気に入らないから懲らしめろ』では魔女狩りと変わらない。冷静な議論をすべきだった」と警鐘を鳴らす。橋下氏と同時に、メディアの責任も問われた。【矢追健介】(下線は私)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20081002k0000e040041000c.htmlより
(引用終)(略)
◇法の解釈逸脱
広島地裁判決について、作家の高村薫さんは「痛快な判決だ。『ともかく懲戒請求すればよい』という橋下氏の論法はむちゃくちゃで、その不当性を裁判所は明快に示してくれた」と評価。一方、情報の受け手側に対しては「私たち一人一人が少しでも法律の感覚を持っていれば、このような懲戒請求がおかしいことは分かる。来年5月から裁判員制度が始まるが、参加する市民の側に弁護士活動への最低限の理解がなければ、信頼できる制度にならない」と指摘した。
田島泰彦・上智大文学部教授(メディア法)は「マスメディアは橋下弁護士に乗せられたことに、深刻な自己批判をしなければいけない。第三者の目で物事を冷静に伝え、正当な批判・検証をするのがメディアの役割。一方の意見に利用されることは絶対にあってはならない」と指摘。橋下氏の発言については「表現の自由の範囲を超えている。数にものをいわせ、魔女狩りのような状況を作り出した。正当な活動をしている弁護士を萎縮(いしゅく)させ、自由な議論を妨げることにつながる」と批判した。(下線は私)
しかし橋下氏の裁判での主張はちょっとナンですね…
現役の有名タレント弁護士が、
「ぜひね、全国の人ね、あの弁護団に対してもし許せないって思うんだったら、一斉に弁護士会に対して懲戒請求かけてもらいたいんですよ」
「懲戒請求ってのは誰でも彼でも簡単に弁護士会に行って懲戒請求を立てれますんで、何万何十万っていう形であの21人の弁護士の懲戒請求を立ててもらいたいんですよ」
「懲戒請求を1万、2万とか10万人とか、この番組見てる人が、一斉に弁護士会に行って懲戒請求かけてくださったらですね、弁護士会のほうとしても処分出さないわけにはいかないですよ」
ここまでテレビで言っておきながら、懲戒請求は請求者が自発的意志に基づいて勝手にやったんであって、自分のせいじゃない、とは見苦しいですね。
橋下氏を信じて義憤にかられて懲戒請求を出した多くの人々はこの責任逃れをどう感じるでしょう。自身は懲戒請求を出さなかったと知って、裏切られた気持ちにならなかったかしら?
また、「表現の自由を巡る法解釈を誤っていた」とのことですが、弁護人を不当に貶め、正当な刑事弁護への偏見を煽って弁護活動を萎縮させ、ひいては被告人の防御権を侵害するような無責任な放言は、もはや「表現の自由」で保護されない事くらい、弁護士なら最初からわかりそうなものですが。
それで、判決を重く受け止めるわりには控訴するんですね。なんでも地裁の判決が不当だからとかではなく、高裁の判断も聞いてみたいから控訴するのだとか。なんだかよくわかりませんが、そんなの控訴理由になるんかな?とちょっと疑問^^;本音はやはり不服なんでしょうね。
図書館の職員を監視カメラで盗撮するのは何の問題もないとする人権感覚の持ち主ですから、おいそれとは刑事被告人の人権なんて理解できないのかな。
この判決、この控訴を大阪府民はどう感じるのでしょうか
もう一つ、橋下氏だけではなく、弁護団をバッシングする報道ばかりしたマスメディアも判決を真摯に受け止めて反省してもらいたいです。
特に、たかじんのそこまで言って委員会は、番組冒頭でのありきたりな短い謝罪文の読み上げでお茶を濁すのでなく、番組で特集組んで、みっちりこの判決について考え話し合ってもらいたい位です(視聴率もあがると思いますよ)
マスコミが報道のありかたをちっとも反省しないものですが、橋下氏とともに激しいバッシングの波を作った責任はとるべきでしょう。
裁判員制度開始はもう間近です。
《追記》
弁護士のため息ブログで紹介されていたリンク先をここでも貼っておきます。
光市事件懲戒煽動問題 弁護団広報ページ
判決全文や弁護団のコメント、記者会見の概要も載っています。
判決文p.32~p.35で述べられている刑事弁護の役割と職責については、是非マスコミで取り上げてもらいたいです。
「世界の片隅でニュースを読む」のmahounofuefuki さんのエントリーでの分析はなるほど、と思いましたので、メモしておきます。
判決をよんだ私の感想はこちら。いやはやすごかった(笑)
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- 追記・橋下氏の賠償命令の判決文を読んで (2008/10/04)
- 広島地裁が橋下氏の光市弁護団懲戒請求発言に賠償命令の判決 (2008/10/02)
- (2007/9/15)【過去記事】橋下弁護士の責任 (2008/01/21)
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