選挙や議員・議会のあり方について考えてみる(2)
- 2010/07/17
- 05:00
2.スウェーデンの議会
市議会には決まった役人席はない。スウェーデンでは議員対議員のディスカッションがメイン。役人の姿はまず見かけない。議会とは、議員同士が議論をする場である。だから議会はシナリオもなく、よくエキサイトして、反論の応酬になることもある。終了時刻は決まっていない。
議会には毎回中学生や高校生が傍聴に来ている。スウェーデンでは、政治教育、民主主義教育が、教育のなかでも重視されている。市議会傍聴という宿題を出されている高校生の姿がたくさん目につく。女性議員が多い。それに服装がカラフルでラフ。女性が多いだけでも、議場の雰囲気が日本と全然違う。さらに、日本のような背広姿の議員は少なく、ポロシャツやジーンズの人が多い。みんな勤め帰りに議会に出席するのだ。
「役人は選挙で選ばれていない。だから、役人が多くの権限を持ちすぎることは、民主主義に反する」というのが、スウェーデンの民主主義の理念。議員同士が議論して、市の政治方向を決めることがあたりまえになっている。
3.スウェーデンの選挙
3年ごとの9月の第3日曜日が、スウェーデンの選挙日である。国政選挙と地方選挙は同日に行われる。その結果、「地方政治の国政からの独立は一層高まった」といわれる。
日本では、4年に1度の統一地方選挙の争点が、たとえば湾岸戦争という防衛・外交問題になるなど、とかく国政選挙と地方選挙の争点を混同してしまう。同日選挙はこれを避けることができる。たとえば、「国政選挙には経済政策に力をいれるという党に」、「地方選挙には福祉サービスの充実に熱心な党に」投票するというように、国政と地方で政策をわけて選択をすることができる。市議会選挙の争点は、保育制作と高齢者福祉政策、小学校教育の問題、住宅環境問題に集中する。
スウェーデンでは、地方選挙も比例代表制で行われている。比例代表選挙では、贈り物を配ったり、有権者に頭を下げて頼んだり、候補者の名前をスピーカーで連呼するというような「投票お願い合戦」にはならない。きわめて静かな政策選挙である。有権者は政策を選び、政党に投票する。各政党は男女比、年齢、職業などができるだけ均等に割り振られるように候補者を比例代表名簿に載せる。若者票を獲得するために、各政党はその青年部のリーダーを名簿に載せることが重要な選挙戦略となる。
選挙キャンペーンでは、政策論争を中心にした物静かな討論、対話集会が一般的である。それでも、投票率はズバ抜けて高い。どんなときも、85%から90%前後の投票率を記録する。選挙ではテレビや新聞がよく使われる。ローカルニュースの時間には市議会議員の候補者たちが登場し、毎日決められたテーマに基づいてディベートを行う。新聞には毎日、政党間の政策の違いが一目でわかるような記事が掲載される。投票日前々日の金曜日の夜8時から3時間行われる、各党党首による最終のテレビ討論会は、翌日には手話と文字放送がつき、二度も再放送されるので、トータルの視聴率80%、ほとんど全国民が見ていることになる。
各政党の候補者は多くの中学や高校を訪れ、選挙前に公開政策討論会を行っている。中学校や高校の授業の中でも、生徒がグループにわかれて、各政党の政策を勉強し、教室や廊下に掲示したり、美術の時間に政党のポスターを描いたりする。
私が立ち会った高校では、各党の代表が一人5分ずつ自分の政党の政策を説明、その後1時間30分にわたって19名の学生が質問した。質問する学生が堂々としていることに驚いた。「あなたの党では減税を主張しているが、それで環境政策はおろそかにならないか?」などという質問が矢のように飛ぶ。
また女子学生の政治への関心の高さも注目に値する。半分以上の質問は女性からなされた。この政策討論会を踏まえて、翌日には「模擬選挙」が校内で行われた。実物の投票用紙を使って、図書館で投票する。選挙の立会人も学生。翌日には、模擬選挙の結果が掲示される。日本と違って、スウェーデンの教育では、選挙そのものが生きた社会教育。スウェーデンでは「政治は大切なもの。住み良い社会をつくるには、政治参加が必要」という若者たちのコンセンサスが形成されている。
1976年選挙から、スウェーデン在住の外国人にも、地方議会選挙での選挙権・被選挙権が与えられることになった。住民投票への参加も原則としてできることになった。
役人の姿はほとんど無く、議員同士の白熱した議論の応酬が続く・・官僚主導から政治主導へ、なんていってた頃の民主党も、もしかしたらこんなのを夢見てたのかも・・?(遠い目)
●スウェーデンは国政も地方も、完全に比例代表制であることに注目です。
スウェーデンに限らずヨーロッパで比例代表制を録っているところは多く、ノルウェイではなんと1896年から比例代表制をとっているのだそうです。比例代表の名簿は選挙の1年前から市民の公開され、男女の比率や順位のバランスはどうか、候補者の職種のバランスはどうか、などを市民がチェックします。
また、女性の政治参加は当然であり女性議員は約半数を占めます。ノルウェイでは4名以上の構成員による委員会や審議会等を公的機関が任命・選任するときには、両方の性が40%以上選出されなければならないと法で定められ、内閣では組閣に当たって、大臣の4割を女性にするという慣行もあります。うらやましくなりますね。
一方、日本の選挙制度は膨大な死票が出て民意が歪められる小選挙区制で、まだ比例定数を削減しようとしています。これは議会制民主主義の根幹を崩す選挙制度を更に推し進めることであるのは何度も書いてきました。また、女性参加を法的に確保するなどまだまだです。
今回の参議院選では得票数の少ない自民党の方が議席数を多く獲得するというめちゃくちゃな事態がおきました。これは民主主義の最低限の原理、多数決をも否定しているということです。
一票の格差が酷いことも民意の反映を歪める大きな原因です。なお、一票の格差については別記事で書く予定です。
●選挙運動について
当たり前ですが、誰あるいはどの党に一票入れるかは、政策や政治理念を知って決めるものですから、それについての十分な情報を有権者に提供することが選挙活動というもののはずです。
有権者として突っ込んだ質問をしてみたいときもあるはずで、そのためには対話集会などがもっぱら有効な選挙活動です。政策や理念を有権者が知ろうとし、それをつたえるのに、本来そんなにお金はかからないはずです。言葉を伝える場があればいいのですから。
ところが日本の選挙運動はかなり特異です。日本の選挙戦は選挙カーが候補者の名前と「お願いします」を連呼するのが風物詩ですが、あれは外国の人には相当奇異に映るようです。私もまだ選挙権がなかったころに「何故あんなに自分の名前だけ連呼するのだろう、名前だけいわれたって誰に投票すればいいか分かるわけはないし、みんなに騒音公害と思われるだけなのに」と不思議に思っていました
しかもとんでもなくお金がかかります。選挙期間12日でかかる費用は2000万円~3000万円かそれ以上(!)といいます。小選挙区制「どぶいた選挙」はカネがかかるようにできているのです。(公職選挙法は選挙にお金がかからないようにする趣旨でビラやポスターの制限をしているんですけどお笑いぐさですね)
何にそんなにお金がかかるのかといえば、選挙カーのウグイス嬢や運転手、事務所スタッフの人件費や、ビラにポスターの印刷費、それを配布する人件費など、そして高額の供託金です。
しかし連呼やポスターやビラは、金がかさむ割に有権者は候補者のことを詳しく知ることはできません。しかもポスターやビラは短期間でゴミになってしまうだけだし。
何故こんな珍妙な選挙運動になってしまうかというと、稀代の悪法、公職選挙法のせいです。
公職選挙法は「なんでコレがダメなの?」というようなことまで禁止され、がんじがらめ、とても自由闊達に政策論争できそうもありません。まあ、かつては政策や理念などよりも「おらが村の先生」に無条件投票する政治風土でしたから政策論争もいらなかったかもしれませんが・・。
選挙運動については公職選挙法も含めてあらためて別記事で。
ところで、このように金がかかる選挙では、地盤看板カバンを持ってる世襲ボンボンの方が断然有利です(ちなみに後援会という組織を通すことにより相続税を払わなくてもすむ裏ワザというか脱法行為?があるので世襲は余計おいしいのですが、それについては別記事で)
しかしスウェーデンではこんなにお金がかからないし選挙活動費も個人持ちではないので、ここでも世襲議員が輩出される土壌がありませんね。日本では政治や選挙には金がかかって当たり前だと思われていますが、日本のような特殊なシステムだから金がかかるのであって、カネがかからないようにしようと思ったらできるのです。(ネット選挙なら政策も伝わるし費用を削減できるのですが、なかなか進みません。)
●地方議会の雰囲気
スウェーデンをはじめ欧米では地方議会は市民が傍聴し、パブリックコメントを述べれるようになっています。アメリカのバークレイという市では小学生まで議会で意見が言えます。
一方日本では・・・これも話が長くなりますので、別記事で。
●さて、私は以前スウェーデンの民主主義教育についてエントリーを書きました(続きを書かねばと思っているのですが、なかなか手が回らなくてすみません。)
http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-407.html
やがて社会を背負っていく子ども達は、中学生のうちから議会を傍聴したり選挙時の対話集会で発言したりすることで生きた民主主義を学び、政治に参加することの大切さ、そして実際に政治参加する体験をしていきます。おどろいたことにスウェーデンには高校生の本物の議員だっています!
そういえばコスタリカにも、大統領選挙の費に18歳以下の子どもが投票する子ども選挙がありました。
より良い民主主義社会を作るにはその社会を構成する市民一人一人が人権、政治、民主主義について生きた学習を積んでいくことがかかせません。民主主義とは市民一人一人が参加して作り上げていくダイナミックなものだと思います。質の高い有権者ならば、たとえば消費税増税しか道はないようなマスコミのプロパガンダや、「小さな政府」「公務員削減」「比例定数削減」「無駄の削減」に簡単に騙されたりしなくなるでしょう。
そう言う面でも地方議会への市民参加、パブリックコメントというものは大事だと思います。
(今回は別記事への割り振りばかりのエントリーになってしまいました。全部を一度に書くと長くなってしまうのでお許しを(^^;;;)
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