千葉法相落選の意味

政権与党の現職閣僚が落選するということは、その政権への支持は心許ないことの現れ、今後の菅内閣の支持率低迷を予感させます。
ですが、その落選が千葉法相であったことに少なからず驚きを感じています。

千葉法相は５選目。改選数３の神奈川選挙区で４人の立候補者で、最下位になったのが千葉法相でした。
現職閣僚だから選挙は優位にあると民主党はほとんど応援をせず、もうひとりの金子氏にてこ入れしていたそうです。

千葉法相は、取調の全面可視化をはじめ死刑廃止など日本の人権状況を改善できる法相として私は大きく期待しました。しかし取り調べ全面可視化を大きく後退させて先送りさせたこと等で、私の法相への期待は現在失望と批判に変わっています。
唯一評価できる行動は、死刑執行書に判を押さないことだけ。
それでも自公時代の「ベルトコンベア」を思えば、法相が死刑執行書に判を押さないことだけでも千葉氏が法相の任についていることには大きな価値がありました（これだけでも価値があるといわざるを得ないところは、なんだか鳩山さんが普天間問題を可視化したとして「評価」するのと似ていますね。いかに日本の政治がお粗末かが浮き彫りになって悲しいですが・・・）

その法相が落選という「民意」をどう考えればよいでしょう。
党が千葉氏の選挙活動に力を入れなかった事も敗因かもしれません。
有権者が民主党よりみんなの党を選んだ結果はじき出されただけかもしれません。
即刻実現すべきだった取り調べ可視化を一部可視化も視野に入れ一年後に先送りにしたことへの批判と受け取れる可能性もあるでしょう。
しかし死刑執行をしない法相の姿勢を国民が支持しなかったとも受け取れます。
国民の8割が死刑に賛成（但し仮釈放のない終身刑導入すれば廃止しても良いという意見も多いことに注意）という世論から見るとこれはありえそうな気がします。

しかし、すっかり忘れられているようですが、自民党時代の歴代法相にも死刑執行書に判を押さない法相はいました。判を押すとしても慎重な人が多かったし世論もそうだったのです。死刑が執行される数は少なかったし、執行されればある程度の衝撃をもって受け止められていました。
それが日本でも新自由主義路線が際だつようになり、オウム事件がおこり、熱狂的な小泉構造改革旋風という流れに伴い、バンバン死刑執行するのが当たり前でそれに慣れっこになるという恐ろしい風潮に変わってしまいました。
自民党時代だって構造改革路線以前は千葉法相のように死刑執行を是としない政治家は決して珍しくなかったのです。

千葉氏は国会議員ではなくなったので民間からの起用ということになりますが、これについては風当たりが強いようです。
その理由として「民間から起用すればその分支払う歳費は増えるので税金の無駄になる、国会議員の中から選んで歳費を節約すべし」「選挙で落ちた人物を大臣に起用するなど民意を無視している」などといわれています。
しかし民間からの起用を憲法が認めてる以上、首相が内閣にふさわしいと思う人物に民間人を起用することを歳費支出を理由に批判するのはおかしな事です。自民政権時代にも落選して民間からの起用という形になった閣僚はいました。
従って「選挙で落ちた人物を大臣に起用するなど民意を無視している」という理由のほうがまだ順当であるように思えるのですが、その民意とは「死刑執行する人物を法務大臣にしろ」というものではないかと私には思えてしまうのです。

千葉法相の続投は9月の代表戦で組閣し直すまで留任という色合いが強いようですが、その後法相の任につく人物は死刑に賛成する人物になるのでしょうか？
取り調べ全面可視化を推進し死刑にも反対という人物が法相になってくれるのなら大歓迎ですが、今の民主党からすれば不安です。何せ、日本人が中国で公正とはいえない刑事裁判（しかも事件は殺人ではなく麻薬取引）によって死刑執行されるのに対し、民主党政権はろくな抗議もしなかったのですから（そして世論もその死刑執行を受け入れていたのですから）

9月以降新しい法相になって死刑執行書に再び判が押されるようになれば日本はまた大きな後退をすることになります。
それとも死刑執行の再開が民意なのでしょうか？それが千葉氏落選にあらわれたのでしょうか？
私は千葉氏の手腕や変節を厳しく批判しているつもりですが、もし死刑執行再開希望が千葉氏落選の意味なのだとすれば、がっかりです。
私の考え過ぎならいいのですが・・・