本末転倒の官僚叩き
- 2009/10/14
- 02:00
「官僚主導」から「政治主導」は結構ですがどうもその意味をはき違えてるというか。
官僚叩きをすれば自民時代の悪政が是正されるような錯覚がまかり通ってるような気がします。
確かに戦後長く続いた自民党支配の下での政財官の癒着、天下り、官僚丸投げ等は是正しなくてはなりませんが、官僚の存在そのものを攻撃するかのような官僚叩きは、かつての小泉時代の公務員叩きと同じく、それは違うでしょ、という違和感を覚えます。
官僚はその分野のエキスパートであることは間違いなく、官僚の仕事なくして政治は立ちゆかないでしょう。
官僚は優秀な政治家が乗りこなすべき馬だと思います。手足であり、道具であり、上手に使いこなすものだと思うのです。
官僚叩きについていくつかブログをご紹介します。
◆非国民通信
・得意気に語れるようなものなのか
・そして「官邸主導」の再来へ
◆きまぐれな日々
・ 単純な「官僚叩き」は「小さな政府」志向の新自由主義の道だ
(追記:大脇道場さんの記事もお勧めです)
◆大脇道場
NO.1396 小沢一郎氏の「国会改革」は、民主政治への逆行ではないか。
このはき違えた官僚叩きの一つを法制化しようという動きがあります。
◆官僚答弁禁止の関連法案、臨時国会提出へ…小沢氏
民主党の小沢幹事長は13日の記者会見で、官僚による答弁禁止などの国会改革について「非常にシンプルなことなので、早く臨時国会で通させていただき、通常国会からその仕組みで国会審議の活性化を目指したい」と述べ、改めて臨時国会で関連法案の改正に取り組む考えを強調した。
(2009年10月13日17時41分 読売新聞)
「脱官僚は国会から。官僚の答弁を禁止することによって政治家同士活発に議論を行えるように。」とのことですが、果たしてこれで国会で実のある議論が活性化するんでしょうか?社民党からも疑問の声が出ています。
<社民党幹事長>官僚答弁禁止の法改正に異論10月8日23時59分配信 毎日新聞
社民党の重野安正幹事長は8日の記者会見で、官僚の国会答弁を禁止するため、民主党が検討する国会法改正について「わざわざ法律を変えてまで禁止する必要があるのか」と慎重な考えを示した。同日の三役会でも、出席者から異論が相次いだという。
国会法改正は6日の与党幹事長会談で、小沢一郎・民主党幹事長が提案した。慎重な理由について重野氏は「あえて法律を変えて役人の答弁を禁止するのは、多様な言論を担保する国会でいかがなものか」と述べた。【太田誠一】
保坂展人さんがブログで、これがいかに無意味で有害な法改正か具体的に分かりやすく書いてらっしゃるので、少し長いですが引用させていただきます。
◆保坂展人のどこどこ日記
官僚の委員会答弁禁止は国会空洞化につながる
(引用開始)
私は幾多の国会論戦で、政府参考人として官僚に出席を求め、全方位的に理詰めで議論を重ねて法案の問題点を明らかにするという仕事を積み重ねてきた。たとえば、2005年において共謀罪の議論では、当時の法務省大林刑事局長に「犯罪行為としての共謀の概念」は、「現在の共謀共同正犯の概念と同一である」と答弁させた上で、共謀共同正犯の最新の判例が「黙示の共謀」(言葉による意志確認を要さずに黙っていても『かくあるべし』という共謀が成立する)まで幅広く認めていることを指摘して、共謀罪における「共謀の成立」は「暴力団の親分が周囲の若い衆に『時は来た、今だ』と「目配せ」をすることもその範囲に含むかどうかを問うて、「そのような場合には成立する場合もある」と答弁を引き出した。
大臣はこの分野では素人の南野法務大臣だった。大臣に「目配せでも成立しますね」と私が問うと、何を勘違いしたのか南野法相は満面の笑みを浮かべながら「はい、目配せでも成立いたします」と答弁したのだ。おそらく、質問の狙いも意味も判らなかったからなのだろう。もし、この時の審議で「官僚答弁が禁止」されていたら、私たちは共謀罪を止めることは出来なかっただろう。
立法作業を蓄積してきた刑事局長や大臣官房審議官などに答弁させて矛盾点を摘出してこそニュースにもなるが、南野大臣が勘違いして的外れの答弁をしたところで毎回のことなのでニュースにもならない。
それは自民党政権の話で、民主党の大臣・副大臣・政務官ははるかに優秀だという反論があるのかもしれない。しかし、私の経験から言わせてもらえば、どんなに優秀な政治家であっても森羅万象にすべて説明能力を駆使する才能を持つ人はひとりもいない。自分の得意分野でとうとうと説明出来ても、まるで知らない分野について国会答弁をする時には「官僚の作文」を活用する以外になくなる。官僚の作文を読んでいるぐらいなら、それは官僚に答弁させて、政治家としての判断や課題整理をきちんと出来ればいい。私は過去に行なった546回の国会質問では、事実確認や逐条審議は官僚に答弁させ、大臣には政治家としての判断を問うという形でやってきた。
「官僚答弁の禁止」で喜ぶのは、政治家ではなく官僚の方ではないか。官僚が隠してきた「薬害問題」や「外務省・国連広報センター問題」など、すべての言い訳を政治家にさせ、嘘の答弁を演出して後日判明しても知らんぷりをしていられる。私は小沢幹事長に提案したい。国会答弁を官僚にさせたくないのなら、議員の質問予告の時に「政府参考人」を登録しなければいいだけの話である。政治家同士の討論はいくらでも出来る。以前のように、大臣に答弁を要求しても役人がしゃしゃり出てくることは、事前登録がない限りは不可能だ。国会法を改正するなら、「虚偽答弁を禁止」する方がずっといい。
勘違いやポカミスではなくて、官僚たちは平気で国会の場で嘘をつく。ごまかしやすりかえならまだしも、明白な嘘は処罰するべきではないか。外務省が「密約はありません」としたのも、悪質で確信犯の嘘である。しかし、国会で嘘をついても議院証言法にもとづく「証人喚問」の時以外に「偽証罪」は適用されない。すべてに偽証罪を適用せよと主張するつもりはないが、「国権の最高機関」を侮辱し踏みにじった責任は取ってもらう仕組みをつくるべきだ。よほど、国会審議は緊張し活性化する。
民主党の国会改革は、狙いが判らない。議員立法禁止は国会改革の流れに逆行しているし、官僚答弁禁止は真相解明を求める国民にとって損失になる。政治家同士の議論を否定しているのではない。しかし、一律的に官僚答弁を禁止するという措置は、国会の場で、真剣勝負で官僚の論理を切り崩してきた現場感覚からは、到底受け入れられるものではない。大きく議論をしないと、政局のみ追いかけ、国会審議に無関心なマスコミが称揚し、あっという間にルール変更されるおそれもある。(引用ここまで。強調は私)
ただただ官僚を叩き否定するような風潮はかえって有害であることがよくわかります。国民の代表である政治家が実のある議論を十分闘わせるという本来の目的に沿わないのです。
小泉時代に行われた「公務員叩き」は、下の者が上の者に復讐する快感で溜飲を下げさせるスケープゴートの役割を持ちました。
実際に公務員を叩いてなにか事態は好転したでしょうか?結局何も良くなりはしませんでした。
それと同じで、この法改正案のような単純な官僚叩きで一体何が良くなるのでしょうか?
保坂さんがいうように、何のための官僚バッシングなのかいまいちわかりません。
小沢さんが公務員叩き同様、「官僚叩き」を意図的にスケープゴートにするつもりでなければいいのですが。
- 関連記事
-
- 子ども手当を新たに創設するより、現段階では児童手当拡充のほうが合理的では? (2009/10/25)
- 本末転倒の官僚叩き (2009/10/14)
- メモ:八ッ場ダム報道 (2009/10/06)