鳩山さんの憲法9条観を見てみる(1)
- 2009/09/02
- 13:00
色々興味深い回答が寄せられています。想像していたよりは護憲が多かったのが印象的でした。
詳しくはhttp://www.magazine9.jp/mqr_1/をご覧下さい。
毎日新聞のアンケートはこちら。こちらでも意外と9条改正に慎重な様子が出ています。
<憲法改正について
自民=賛成97% 反対3%
民主=賛成57% 反対24% その他・無回答19%
公明=賛成73% 反対18% その他・無回答10%
共産・社民=反対100%
9条改正について
自民=賛成82% 反対11% その他・無回答7%
民主=賛成17% 反対66% その他・無回答16%
公明=賛成24% 反対71% その他・無回答6%
共産・社民=反対100%>
(公明党がちょと意外でした)
新政府は当面9条改正は争点にはしないのでしょう。
しかしソマリア派遣は現在進行形ですし、来年5月には国民投票法が施行されますから常に頭の中に入れておく必要があると思います。
9条に関する党是のニュアンスやアンケート内容からみても、民主党は自民党ほどイケイケではないとは思います(個々人では自民並みに危険な人もいますが)
でも、もしいつか自民と民主が改憲の方向で互いに協力することになり、危険な方向へ流れ出したら止めようがありません。
なので、争点にしてないうちからじっくりと9条について考えていきたいです。
もちろんこの鳩山試案がそのまま「民主党憲法改正草案」になるわけではないでしょうが、民主党党首の考え方を分析しておくのは無駄ではないと思います。
さて、色々な回答がある中、党首の鳩山さんはどのような回答をしているでしょうか
鳩山さんはマガジン9条が用意した(1)~(6)以外の「その他」を選択しました。
鳩山由紀夫さん
その他
理由:自衛の範囲を超えた武力行使や、国連決議によらない海外での武力行使を結果的に認めるような改憲には反対です。一方で、いくら9条を墨守してみても時々の内閣の都合で事実上の解釈改憲が進んでいます。政府が行う自衛権行使や国際協力について、国民が憲法の明文できちんと歯止めを設ける必要性が高まっています。自衛隊の「できないこと」を明確にするという観点であれば、条文を変えた方がより良くなる余地があると考えます。(下線は私)
だそうです。
では彼のHPにある改正案で、鳩山さんの考え方をもう少しくわしく見てみましょう。
Ⅰ.鳩山さんは現憲法についてどう認識、評価しているのでしょうか
Ⅱ.自衛権、国際協調をどのようにとらえ、自衛隊はどうあるべきとかんがえているのでしょうか
Ⅲ.鳩山改正案と今の憲法と明確に異なる点は何でしょうか。そして自衛隊の「できないこと」は何なのか明確に規定できているのでしょうか。
などを、私なりに見ていきたいと思います。間違ってることや見落としていることもあるでしょうからご指摘いただけるとありがたいです。
Ⅰ.鳩山さんは現憲法についてどう認識、評価しているのでしょうか
HPから抜粋したいと思います。
敗戦と占領という時代状況を背景とする現行憲法の基本的な思想は、侵略戦争や膨張主義に反対する世界の潮流のなかで、日本が非侵略的国家でありさえすれば、アジアの平和は保たれる、というものだった
(略)
日本国憲法の国際認識は、冷戦が始まる以前の、国際連合の集団的安全保障機能に対する内外の楽観的な期待感を反映したものだった
(略)
しかしそのような楽観的な国際認識は、冷戦の進行の中でたちまち蹴散らされ、警察予備隊、保安隊、自衛隊が生まれ、政府の憲法解釈も、祖父鳩山一郎内閣のときまでには「九条は自衛のための戦力の保持まで禁ずるものではない」というところに落ち着いた。
(略)
日本一国の平和と国際協調という観点からすれば、戦後憲法の理念は、大きな成果を挙げたといってよい。私はそれを戦後日本の成果として高く評価することに吝かではない。
しかし冷戦終結以後、日本の国際協調主義は大きな試練に立たされた。湾岸戦争がその始まりだった。日本国民の多くも、このとき、日本が国際社会の脅威になりさえしなければよい、という戦後の平和主義が、国際社会ではそれほど評価されていないことを知った。「国際貢献」という言葉が流行しだしたのもこのころからだ。
(略)
憲法の条文と政治的現実があまりに乖離していることは、日本の政治から健全なリアリズムを奪い、日本の「政治の言葉」について侮りをかい、外国の信頼を失うもととなる。平成の新憲法においては、わかりやすい言葉で、現実に保有する軍事力とその制約について規定し、行き詰った戦後憲法的な国際協調主義を新たな国際環境の中で定義し直さなければならない
冷戦が始まるまでは楽観的で何の備えもなしでいるのが一番と思われたが、いざ冷戦が始まったら自国の防衛のため自衛隊は必要不可欠になった。
今の憲法の平和と国際協調の理念は大きな成果を挙げたし評価できるが、もはや9条では安全保障も思うようにならず、求められている国際貢献もできない
という、基本的には今まで改憲を主張する人々が言ってきたのと同じ認識、評価だと思います。
こういうよくある改憲論者の認識について、私はいつも以下のような疑問を感じます。
・9条を空文化の原因は日米軍事同盟ですが、実際この同盟はお互いの国の安全を保障し合おう対等なものではなく、アメリカの冷戦の戦略の一環として日本を防波堤として使いたかったというアメリカの思惑で結ばれたことはスルーされています。
そして今も日本はアメリカの戦略にご奉公している現実もスルーされていますし、この不平等な日米軍事同盟がほんとに国民のためになっているのかという検証もスルーです。
・また、9条では自国の安全保障ができないし国際貢献もできないということが自明の理のように語られていますが、この決まり文句はほんとに正しいのでしょうか。それも考えてみる必要があると思います。
・そもそも9条を遵守しようとせず率先して9条と乖離するような既成事実を積み上げきた政府自身が、「憲法の条文と政治的現実があまりに乖離していることは、日本の政治から健全なリアリズムを日本から奪う」というのは信義にもとるというか、なにをか言わんや、という気がします。
確かに憲法と乖離した状態をずっと続け、「自衛隊は軍隊ではない」という詭弁を続けるなら、外国の信頼を失うもととなるおそれがあります。
ならば今ある現状をより9条に近づけ戻していくことが信頼を失わないことになるんじゃないでしょうか。
憲法を変えて現状を追認することで憲法と現実を近づけても、外国の信頼を失わないことになるとは思えません。少なくともアジア諸国では間違いなく反発が起き、信頼を失うでしょう
・世界に先駆けて非戦非暴力という崇高な理念を掲げた9条は国際的にも高い評価を受けています。
果たしてこの理念を後退させるほど、軍事による防衛や「鳩山さんが想定してる」国際貢献は価値があるのでしょうか。
また、次のような表現も気になりました。
自衛隊は、志願制を貫きながら、その使命感、士気、規律、能力のいずれをとっても世界に冠たる見事な軍事組織に成長した。
非暴力を貫こうという憲法の精神からすれば「見事な軍事組織」なるものが手放しの高評価に値するのか、非常に疑問です。
そして日米軍事同盟が対等な関係でなく常にアメリカに従属した関係であることを考えれば、どんなに整備された軍事組織を持っても所詮アメリカの手駒でしかない、という現実を無視することはできません。
だいたい、
「国連軍の一員としての外交特権も、米軍の指揮下に入ってのイラク暫定政府との特権の約束もなく行かされた自衛隊員は、ゲリラ部隊同然で、イラク人を撃ったり犯罪に巻き込まれれば、現地の警察に捕まったかもしれないが、事前にそんな審議は国会でもなかった。」 (by伊勢崎賢治 さん)
という国際貢献とは名ばかり、先ず派遣ありきの粗雑な使われ方をしたのでは、いくら「見事な軍事組織」であっても意味がないでしょう。
違憲判決がでたイラク派遣については
私は今回のイラクへの自衛隊派遣には反対した。しかし憲法違反だからという理由ではない。これまでの法制局解釈を前提としても直ちに違憲とはならない。問題の本質は政治判断の誤りにある。つまり今のアメリカの政権にあまりに密着しすぎ、その外交政策に振り回されることは、国益に反すると判断したからである。これは独仏と同様の判断であり、小泉首相とは国益についての判断が異なるということだ。
イラク派兵は違憲ではないが国益に反するから反対だというのなら、ソマリア派遣は違憲ではないし日本の船を守るという国益を守る行為(かどうか疑問ですが)であるから、当然何の問題もなくOKという考えになるでしょう。
しかし自分たちの利益のために武力は絶対に使わないと決めたのが憲法ですから、ソマリア派遣はある意味イラク派遣よりタチが悪い違憲行為なのです。
ところでこれを書いたのイラク派遣違憲判決の前でしょうか?
違憲判決にかかわらずまだイラク派遣もソマリア派遣も違憲ではないと考えているようなら、残念ながら憲法が何を求めているかを解釈するセンスがないと言えるでしょう。
それではこれから先、自民政権のようにどんどん解釈改憲をしてしまう危険を持っていると危ぶまれます。
HPでは次に具体的な改正案が書いてありますが、それは後回しにして、先に自衛権、国際協調についての鳩山さんの考えを見てみます。(続く)
<<追記>>見やすくするのに色を付けました
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