菅谷さんの取調録音テープからわかること
- 2010/01/28
- 23:35
足利事件再審公判廷で流されたテープは検察官の取調です。
前のエントリーにあげたテープの再生の記事を読むとわかると思いますが、暴力的で脅迫めいた取調ではありません。
このテープは検察が威嚇して自白を強要したことを証明するものではなく、別の事柄を証明するテープだと思います。
即ち、
人によっては最初に警察に怖い目に遭わされ自白してしまうと、それ以降もう怖い目には遭いたくないと縮み上がってしまい、嘘の自白を自ら維持してしまう事を、このテープは証明していると思うのです。
菅谷さんは任意同行されて十数時間後に自白、逮捕に至っています。
もちろん、警察が任意同行しようと初めて菅谷さんの前に現れた時の記録は残っていません。
その「任意同行、任意の取調」がどのようなものであったか、菅谷さんの回想から引用させていただきましょう。(念のため、これは逮捕の場面ではありません。任意同行の場面です)
菅谷利和『冤罪』より抜粋
(引用開始)
(日曜日の朝7時頃)玄関の戸をドンドンと強く叩く音が聞こえたのです。
(略)パジャマ姿のまま、恐る恐る玄関まで行ってみると、外から男の怒鳴り声が聞こえてきました。
「菅谷はいるか!」「警察だ!」と言われたのです。驚きながら玄関の前にかかっていたカーテンを開くと、三人の屈強な男達が立っていて、勝手に引き戸を開いてドドドっと中へ入ってきました。自分は唖然としていたと思いますが、かれらに居間まで押し戻されて、座卓の前に座らされました。
彼らは背広姿で、警察手帳を見せるでもなく、名前を名乗ることもありませんでした。おっかない顔を浮かべて突然、
「お前、子どもを殺しただろう」
と凄むのです。
(略)自分とは何の関係もないので、
「いや、自分は何もやってません」
と答えました。脅えていて、小さな声だったと思いますが、直後、隣に座っていた刑事に肘鉄砲でどんと右胸を突かれ、後ろにひっくり返って床に頭をぶつけました。何が起きているのか、訳がわかりませんでした。
(略)自分で身体を起こすと(刑事が)胸ポケットから一枚のカラー写真を取りだして、突き出してきて、「謝れ」というのです。(略)ただどうしていいかわからなくて、混乱しながらも、静かに手を合わせました。
女の子の冥福を自分なりに祈ったつもりでしたが、そこから彼らはまた「やっただろう」と何度も怒鳴りつけてきました。何度も「自分はやってません」と言ったつもりですが、こんな目に遭う理由がさっぱりわからずに、自然と涙が溢れてきました。
(略)
(その日は結婚式に呼ばれていたので)刑事にも恐る恐る、
「今日は結婚式によばれています」
と話しました。ところが、そんなことはお構いなしです。
「そんなのはどうだっていいんだ!」
「今から警察に行くからな。だから、着替えろ」
と命令されました。
自分はひどく気が小さい性格だったので、強い者に命令されると、何も反論できませんでした。まさか結婚式に出られなくなるとは、まだ想像していませんでした。だから、刑事のいる前で、パジャマから普段着に着替えました。
「外へ出ろ」「鍵をかけろ」と、言われるままに従いました。(引用ここまで)
この十時間ほど後に菅谷さんはとうとうやってもいない犯罪を自白してしまいます。おそらくこの時のテープは存在しないのではないでしょうか(形の上では任意の事情聴取なので)
菅谷さんは自分でも仰っていますが、元来気の弱い性格のようです。そういう人は任意の事情聴取(どこが「任意」なんだか!)の段階でガツンとやられると、以後恐怖心で抵抗できなくなってしまうのです。検察官の暴力的ではない寄り調べに対して断固として自白を翻すことがなかったのはそのためです。
従ってこのテープは、任意も含む全ての取調を可視化していないと、たとえ脅迫的でない雰囲気の下での取調での自白だからといって、決して信用できるとは限らないことを示す証拠になります。
警察の主張する一部可視化がいかに無意味か、よくわかりますね。
こういう証拠を複製して報道機関に公表し世間に知らしめることが何故「目的外使用」として禁じられるのか、わたしにはさっぱり理解できないのです。
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