経団連の御手洗さんが選択肢として出したワークシェアリングは眉唾ものだと思います。
- 2009/02/05
- 02:34
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090201-00000512-san-pol
ワークシェア導入に向け「政労使会議」の設置を検討 政府与党
2月1日2時6分配信 産経新聞
政府・与党は31日、未曾有の経済危機が雇用を直撃するなか、雇用維持に向けて政府、労働界、経済界の代表者による「政労使会議」を設置する方向で検討に入った。政府はこれまで雇用問題については労使の協議を見守る姿勢を示してきたが、利害が激しく対立する労使間での調整は難航している。政府が事実上の方針転換に踏み切り、積極的に労使の間を取り持つことで、仕事を分かち合うワークシェアリングなど、雇用維持に向けた対策が一気に動き出す可能性が強まってきた。
「政労使会議」は官邸に設置する案が有力だ。労働時間の短縮と賃金削減を組み合わせるワークシェアリング導入に向けた議論を加速させるのがねらいだ。
メンバーの人選などはこれからだが、政府のほか、日本経団連など財界の代表、さらには連合の代表などが労働側の代表として参加する見込み。また、連合のほかに、非正規労働者の代表を加えることも検討していく。(引用ここまで)
ワークシェアリングとは、一人あたりの労働時間を短縮して仕事を分かち合うことによって雇用を維持、確保していくことですが、経済には大変疎い私でも、これ、ほんとに雇用の確保に繋がるのかと首をかしげてしまいました。
今安定した雇用を最も求めているのは派遣切りにあった非正規雇用者です。なのに大手企業は派遣切りを思いとどまる様子は見せません。
非正規の雇用を少しでも守るつもりがないのなら、御手洗さんの言うワークシェアリングに意味はありません。その実態は、体の良い正規雇用者の賃金カットの口実でしかなくなります。
正規雇用者はただでさえ長時間低賃金労働だったのにますます生活が苦しくなるわけで、これは「それでもクビよりはまだマシ」と更に足元を見られることになりそうな気がします。
そしたら平気で違法なサービス残業を課してきたような労働環境では、賃金カットされるものの時短がきちんと実現するかどうかも怪しくならないでしょうか。
またしても企業側は自分の懐は痛めないまま、今度は雇用維持の名目で、正規雇用者側に時短と賃下げという負担を押しつけようとしている予感。
もし非正規労働者の仕事を確保するためのワークシェアリングでもあるというのなら、本来なら企業が負うべき不況のリスクを、派遣切りや雇い止めで非正規労働者に押しつけて内部留保を温存してきたことから見直すべきかと思います。
企業側が今まで同様自分の財布のひもはしめたままで、労働者側がありつけるパイは小さいまま据え置くなら、賃金カットされた正規雇用者の不満の矛先は非正規雇用者に向かうでしょう。自分の分け前が減ったのは非正規のせいだ、ということになりますから。
まずは何らかの形でパイを大きくするところから始めないと、話になりません。そうでなければ御手洗さんの「選択肢の一つ」をそのまま導入するのはなんの解決策にもならないばかりか、正規も非正規も両方が苦しくなるだけと思います。
経団連や政府が言い出す経済政策って、たいがい眉唾ものであるのは情けないことです。
(先日スウェーデンに関する本を読んだのですが、このあたり政府の成熟度といいますか、誰のために政府は存在するのかという認識がまるでちがうことに悲しくなります)
実は、あらためてワーキングシェアなど持ち出さなくても労働基準法無視の長時間の過酷な労働を是正するだけでかなり解決できるし、それがワークシェアリング導入の大前提であることを、ノックオンさんのブログすくらむがとてもわかりやすく書いていてくださいました。
◆ワークシェアリング以前の問題 - 欧州より毎年3カ月以上余計に違法に働かされている日本の労働者
(引用開始。改行は少し触りました。強調は私)
そもそも「ワークシェアリング」を考える前にやらなければいけないことが、日本にはたくさんあります。
統計上の数字だけで比較しても、日本とドイツ、フランスの労働時間の差は年間400時間以上もあります。これはドイツ、フランスの労働者の3.1カ月分の労働時間にあたります。要するに日本の労働者は、ドイツ、フランスの労働者から見れば毎年3カ月以上も余計に働いているのです。
さらに日本の労働者には、ヨーロッパには一切存在しない違法な賃金不払い残業=サービス残業が年間120時間もプラスされます。最近ではあらたに、「名ばかり店長」「名ばかり管理職」「名ばかり正社員」で、1日18時間労働を強制されるような事例が多発しているのです。
また、日本の労働者の年次有給休暇の平均取得日数は、フランスの「34日」の4分の1以下の「8日」にしかすぎません。
ドイツ、フランスの労働者より毎年3カ月以上も余計に働く日本の労働者に、過労死や過労自殺、うつ病などの精神疾患、労働災害などが増えるのは当然の結果といえ、日本の異常な超長時間労働が、人間そのものを壊しているのです。
このブログで以前にも紹介したように、「非正規の正社員化・サービス残業根絶・週休2日・有休完全取得で635万人の雇用創出し日本経済は拡大」 するのです。
サービス残業は1人当たり年間120.7時間あり、これを根絶すると118.8万人の新たな雇用が創出されます。雇用拡大への効果は絶大です。
また年次有給休暇を完全に取得すれば、131.7万人の雇用を増やせます。
これらは新たな法律をつくるなどの措置をとらなくても、企業が違法なことをやめ、ルールを守りさえすればいいことです。
雇用が大事というのなら、まずとるべき方策は、違法なサービス残業の根絶と超長時間残業をなくして、人間らしい労働にもとづき雇用を創出することです。これが、「ワークシェアリング」の大前提として、まず解決しなければならない課題なのです。
日本の企業による違法な働かせ方の横行は、「ワークシェアリング」を議論するレベルにさえ達していないことを示しているのです。この違法な労働実態を放置したままでは、「ワークシェアリング」の議論に入る前提条件さえ整わないのです。
また、ダイアモンド社論説委員の辻広雅文さんはワークシェアリングについて、DIAMOND ON LINEで、
『ワークシェアリングは、労使に加えて政治の三者が関わらなければ長期的に制度として機能させることは難しい。先進事例として知られるオランダモデルがそうだ。
経営者は雇用を維持する、労働側は時短、賃金カットを受け入れる。そして、政府は税制等を使って家計の教育費などを支援、補助するなどして関わらないと、ワークシェアリングは、単なる時短、賃金カットに過ぎない。』
と指摘していました。
(オランダモデルとは、ワッセナー合意(1982年)のことで、政労使の合意として
・働組合は賃上げの抑制に努める
・経営者は雇用の維持と時短につとめる
・政府は減税と社会保障負担の削減、財政支出の抑制につとめる。また企業投資の活性化による雇用の増加を促進する。
というものです。
フレキシビリティー法といい、オランダには見習うべきモデルがあるようですね。)
その通り、ただでさえ低賃金の所を更にカットするわけですから、その分政府が減税や公的な援助を充実させるなどの手厚い措置をとらなければ、今の日本では最低限の暮らしさえ出来なくなる正規雇用者が続出すると思われます。
政府の働きでパイを大きくすること無しには、ワークシェアリングは機能しないのです。
ワークシェアリングについての議論を政労使会議で進めるのなら、この政府の役割を抜きにして欲しくないと強く思います。
そしてノックオンさんの言うとおり、ワークシェアリング導入前にまず正規労働者のサービス残業や長時間労働をなくすことに取り組まなくては、ますます貧困層を増大させてしまうだけと思います。
ワークシェアリングによる雇用確保というと耳触りはいいですが、ホワイトカラーエグゼンプションを「家族団らん法」に、共謀罪を「テロ対策条約」にと、耳触りの良い言葉に言い換えたように、巧みな言い換えにはだまされないようにしなければ、と思います。
最後に、赤旗が的確に指摘していましたのでこれもリンク貼りしておきます。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2009-01-20/2009012005_01_0.html
- 関連記事
-
- 介護報酬が上がっても給料は上がらないんです、舛添さん (2009/06/30)
- 経団連の御手洗さんが選択肢として出したワークシェアリングは眉唾ものだと思います。 (2009/02/05)
- 外国人労働者とも連帯を (2009/01/20)
トラックバック
フランスの税制論議は今、担税力ある者に応分の負担を求める方向に。
- 2010/04/17(22:12)
- 村野瀬玲奈の秘書課広報室