新3要件の「存立危機状態」とは、何をもって存立危機状態と判断するのか基準が明確でない、それでは新3要件など何の歯止めにもならない、という批判が以前から為されてきましたが、いよいよこの新3要件なるものは政府に完全なフリーハンドを与えるもの以外の何者でもないことが、安倍首相自身の言葉から明らかになりました。
●安保法案審議 武力行使要件 首相が逆説論 東京新聞 2015年7月4日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015070402000131.html
安倍晋三首相は3日の安全保障関連法案に関する衆院特別委員会で、他国を武力で守る集団的自衛権に関し、「日本の存立が脅かされ、国民の生命や権利が根底から覆される明白な危険」が「ない」と判断できない場合に、行使に踏み切る可能性に言及した。安保法案は、明白な危険がある「存立危機事態」に武力行使できると定めているが、首相は論理を逆転させた。集団的自衛権行使の判断が、政府の裁量に委ねられていることがあらためて鮮明になった。 (金杉貴雄)
首相は、集団的自衛権行使の事例として北朝鮮が公海上の米艦を攻撃した状況を挙げて「日本を攻撃しないと言いながら、意図を隠して攻撃の用意をしていることは当然あり得る」と指摘。集団的自衛権の行使が可能となる存立危機事態の認定に関し「明白な危険が『ない』をどう判断するかだ」と説明した。
「日本へのミサイル攻撃が顕在化していなくても、潜水艦に乗せる特殊部隊を持ち、東京で大規模なテロを行うことも考えられる」とも述べ、明白な危険が「ない」と確認できないなら、集団的自衛権に基づき自衛隊が反撃することもあり得るとの認識を示した。
特別委では、日本防衛のために公海上で警戒中の米艦に対する攻撃は、日本への武力攻撃の着手と認定できる場合があるとの過去の政府答弁が取り上げられた。
この答弁に関して、首相は「実際には認定するのは難しい」と指摘。「個別的自衛権での対応には限界がある」として、集団的自衛権でなければ自衛隊が米艦を守ることは難しいとの認識を示した。
「明白な危険がないといえない」=「明白な危険があるとみなすことができる」という趣旨ですよ、これ
即ち、アメリカ(この場合は米艦船)が攻撃を受けたら、「絶対に日本にも仕掛けてこないことを立証できない限り、日本にも攻撃するとみなすことができる」と言ってるのです。
大変、もはや「悪魔の証明」の域ですね。当然ですが、「絶対に日本に攻撃をしない」立証など誰にもできるわけがありません。
もし「日本に対しては攻撃する気もないし、日本への攻撃の準備なんか何もしてないよ」と北朝鮮が明言したとしても
「いや、日本人を拉致した国が言うことなど信用できないし、ノドンを持ってる限り日本に攻撃してこないと言い切ることは出来ない」とか、「日本と友好国であるアメリカに攻撃を加えたこと自体が、日本に対する敵意として十分だ」とか、なんとでも理屈をつけて「明白な危険がある」ことにしてしまえるのです。
イラク戦争を仕掛けたアメリカの口実を思い出しますね。
アメリカはイラクは大量破壊兵器をもっているとイチャモンをつけ、イラクは国連の査察を受け入れてまで持っていないと主張したのに(結果、本当に持っていませんでした)、いや、きっと持ってるはずだ、そしてその大量破壊兵器でアメリカを攻撃してくるはずだ、といって「自国の安全保障のため」イラクへの攻撃を始めたのでした。
そして去年、安倍首相は、「集団的自衛権の行使容認に関連し、行使に必要となる武力行使の新三要件を満たしたとの判断に至った根拠となる情報が、特定秘密保護法に基づく特定秘密に指定され、政府の監視機関に提供されない可能性がある」と述べています。
本当に「明白な危険」なんかあったのか、実はそんな危険などなかったのに政府が勝手に集団的自衛権を行使したのではないか。
それを後に検証しようとしても、特定秘密指定してしまえばと一切検証することができません。しようとすれば懲役です。場合によっては永久に検証できないのです。
日本は実際には全然危機にさらされて無い状態なのに、米が何らかの攻撃を受けたとあらば政府は自衛隊に直ちに無条件で助太刀に駆けつけ参戦せよと命じることが出来る。
自衛隊員はこの法案で新たに設けられる国外犯規定により、地球上の全ての場所で上官の命令に逆らったら懲役を含む重い処罰を受けることになる。よって集団的自衛権行使する外国で命令を拒否することが出来ない(今までは日本領域内や日本の船、飛行機に乗ってる場合だけが処罰対象だった)
また、敵に捕まってもジュネーブ条約の保護を受けられず、捕虜になら義務づけられてる人道的な取り扱いを受けられない。
日本を危機から救うためでなく、アメリカの手伝いのためだけに、こういう状況が不可避になる
そして政府の判断が正しかったかの検証は一切許さない、文句も許さない。
そんな国家になることが明らかになりました・・・なんと国民を軽視した恐ろしい軍事独裁国家でしょう、安倍の手で日本がこんな国にされてしまうなんて、絶対に嫌です。
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ところで、この北朝鮮×米艦船の事例ですが、6/29に民主党が、これは集団的自衛権ではなく個別的自衛権で反撃できると指摘し、中谷防衛相も個別的自衛権で対処できるケースがあることを認めています。横畠裕介内閣法制局長官もそう述べたことを
過日のブログで取り上げました。
このとき、安倍首相は「米艦への攻撃をわが国への武力攻撃の着手と考えるのは難しい」と答えています(安倍首相のこの主張は
昨日のこの記事でも紹介しました)
つまり、この北朝鮮×米艦船の事例では、集団的自衛権の行使は可能だが個別的自衛権は行使できないと安倍首相は言っているのです。
これ、非常に矛盾してることがおわかりになりますか?
米艦が攻撃を受けた段階というのはまだ北朝鮮が「わが国への武力攻撃に着手」していない状態なので、個別的自衛権を発動することは出来ない、と安倍首相は言っています。
何故個別的自衛権が発動できないとされているかといえば、この段階ではまださほど危険が切迫してるとはいえず、自衛権を発動する必要性に迫られてないからなのです。
個別的自衛権が発動できないというからには、安倍首相は、日本はさほど危険が切迫していない状態であると認識しているわけです。
ここで、新3要件のうちの第1の要件を見てみましょう。
我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
米艦への攻撃はいまだ北朝鮮が武力攻撃に着手した状態とはいえないので、個別的自衛権は行使出来ない
ということは、日本に危険が切迫しているとは言えない状態であり、当然「我が国の存立が脅かされ国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」状態でもないことは100%明白
よって、集団的自衛権行使は100%行使できないというのが論理的帰結になりますおかしいじゃないですか、安倍さん!
何故こういう矛盾が起こるのでしょう?
それは、この第1要件自体が最初から矛盾を内包しており、成り立たないものだからです。
何度も言っていますが、集団的自衛権とは自衛という言葉を使ってはいるものの、実態は「他国を防衛する」ものであって、「自衛」ではないのです。
しかしそんなことに自衛隊を出して自衛隊員の命を危機にさらすなんて、国民が反対するに決まっています。
ですから、あたかも個別的自衛権を発動しても良いくらい日本に危機が迫ってるときに限り集団的自衛権も行使出来る、いわば、個別的自衛権が重なる部分の集団的自衛権を認めよう、的な体を装って、国民の賛同を得ようとしたのだと思われます。
しかし、他国が攻撃されただけで「我が国の存立が脅かされ国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」ことなど、現実にはありえません。そんな事態が過去起こったことがあるかと国会で質問されたとき、政府は「そんな事態はなかった」と答えざるを得ませんでした。
かつて安倍首相がパネルを使って集団的自衛権がわが国の安全保障のために必要を思われるケースを複数あげたことがありましたが、どれもこれも全て、個別的自衛権で説明がつくか、実際にはあり得ない事例ばかりでした。
水島先生も仰っていますが、集団的自衛権と個別的自衛権は二者択一の関係にあり、両方が重複することはありません(このへんの詳しい解説は
こちらをどうぞ)
それをあたかも両者が重複する場合があるかのような前提で作っているから、この第1要件はそれ自体成り立たないおかしなものになっているのです。
こんな論理矛盾を抱えた法案では、まともな法解釈、法運用など全く望めません。法律として存在している事がカオスとしかいいようがないです
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さて、もうひとつ
この北朝鮮×米艦船の事例見ると、維新案はますます実質政府案と変わらないことが容易に想像できますね。
維新案は、「日本防衛のために活動する外国軍が攻撃され、日本も攻撃される明白な危険がある“武力攻撃危機事態”」ならば自衛権を発動できる、というものです。
安倍首相のように「明白な危険がないと確認できないならば、明白な危険があるとみなす」のならば、米艦船が攻撃を受けた段階で“武力攻撃危機事態”にあると判断するのは比較的容易です。
よって日本は個別的自衛権を行使できる場合がある、という結論になりますね
要するに、政府案だと「集団的自衛権」の名前で武力攻撃することになるが、維新案だと「個別的自衛権」の名前で武力攻撃することになる、その違いだけです。
もちろんどちらの名前を使おうとやることは一緒です。
おまけに特別秘密保護法のせいでそれを後から検証できないのも同じ。
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最後にもう一つ
比較的早い段階で指摘されていたのですが、集団的自衛権の行使には国際法上、被害国(アメリカ)の要請が要件となります。これがないと正当な集団的自衛権行使とはみなされず、ただの先制攻撃になってしまいます。
この要件は未だに付け加えられていませんが、どうするつもりなんでしょうね?
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