母子家庭への手厚い支援がある社会だったら、もしかしたら川崎の少年は救えたかも知れない、と考えてみる
- 2015/03/09
- 06:00
少年法では加害者の少年の身元がわかるような報道をしてはならないことが定められています。しかしこの規定には罰則規定がありません。ですから売り上げ増を狙って週刊新潮が主犯格の18歳の少年の顔写真を公表したりするのです。
これ、普通の民主主義国なら「少年法を改正して実名や顔をさらすことに罰則を設けよ」という流れになるハズなんですが、この国ではいつも逆で、少年事件が起きる度に少年法をなくせとかいう声があがります。
どうしてこの国は歴史の中で進化を積み重ねてきた近代刑事法のあり方に逆行したがるのか、ため息が出ます。これもこの国が民主主義を捨てて時代を逆行したがってることの反映なのでしょうけど。
詳しくは宮武嶺さんがプロフェッショナルで丁寧なエントリ-を書いてくださってますので、そちらを熟読していただきたいと思います。
<Everyone says I love you !>
●川崎中1殺害事件 週刊新潮が少年の実名と写真を掲載したことの問題点 社会的制裁では凶悪犯罪は減らない
http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/f6704d917042575038c589320ab6e482
さて、これからが本題。
今回はこちらの報道について考えてみたくてエントリ-を書いています。
●「愛だけでは守れない」ひとり親支援求める声 中1殺害
http://www.asahi.com/articles/ASH3446Y3H34UTIL00S.html
川崎市の中学1年生上村(うえむら)遼太さん(13)が殺害された事件で、母親のコメントが反響を呼んでいる。母親は親子で向き合う時間が取れなかったと悔いた。ひとり親家庭の親や専門家らからは「母の愛情だけでは子どもを守れない」など、社会の支援を求める声が上がっている。
母親は離婚後、一昨年夏に実家のある川崎市に移り住んだ。近所の人によると、医療・福祉関係の仕事をしながら5人の子どもを育てていた。
『今思えば、私や家族に心配や迷惑をかけまいと、必死に平静を装っていたのだと思います』
母親のコメントの一節に、児童養護施設の退所者の無料相談所「ゆずりは」の高橋亜美所長は、被害者と支援で出会った子どもの姿を重ねた。子どもは働きづめの母や父に心配をかけまいと、痛みや苦しみをひとりで背負っていた。「生活費を稼ぐことが『待ったなし』の状況で、母親は責任を問われるべきなのか。もし私が同じ状況だったら、息子の異変にすぐ気づいて学校や支援機関に助けを求め、子どもを救えただろうか」
被害者は、夜に河川敷で暴行を受け、死亡した。
『日中、何をしているのか十分に把握することができていませんでした』
コメントからは母親が早朝から夜遅くまで働いていたことがうかがえた。大阪府豊中市の女性(47)は「私も同じ働き方だった」と振り返る。11年前に離婚。介護施設などで朝7時半から夜8時まで働きながら、当時小学生から2歳まで3人の子どもを育てた。月収は児童扶養手当を入れて16、17万円。帰宅が夜遅くなっても、なるべく子どもと一緒に夕飯を食べた。食べ方や表情を観察したが、「それ以上目をかける余裕はなかった。一人で子どもを守らなければと気負っていて、周りに相談できなかった」。
NPO法人「全国父子家庭支援連絡会」の片山知行代表も「ほとんどの人が生活のために仕事をしている。子育てとの両立はいつもせめぎ合い」と言う。2004年に父子家庭となった当時、運送会社の所長として忙しく、夜は小学生と保育園の子どもの顔をほとんど見られなかった。「子どもも親に負担をかけないように遠慮していた」
ひとり親家庭は、親の労働時間が長く、子どもと向き合う「ゆとり」が生まれにくい。厚生労働省の「全国母子世帯等調査」(2011年度)によると、母子家庭の母親の8割が働いている。約半数はパートやアルバイトで、平均年収は約180万円。生活保護や児童扶養手当などを含めても223万円だ。女性は家計を補助する程度に働く立場と想定された低賃金の仕事が多く、ひとりで十分に稼げない労働構造になっている。
ツイッターでも、コメントを出した母親への思いがつぶやかれた。「SOSを発していた息子にもっと関心を持って欲しかった」と責任を問う声。「なんでこんなに『自分の至らなさ』を言い訳しなければいけないんだろう、これほどの状況で」とかばう声――。
親が「ゆとり」を失う背景は何か。
「自己責任という世論が浸透し、行政などに頼れる立場ではないと思わされている」。「大阪子どもの貧困アクショングループ」の徳丸ゆき子代表は、社会がSOSを出させなくしているのだと指摘する。
「亡くなった子どもへの思いと、それを十分に発揮することを阻んだ現実の生活条件との『落差』」。社会学者の水無田気流(みなしたきりう)さんは、母親のコメントからそう読み取った。
先進国は70年代からひとり親世帯にも目配りした福祉制度を作ってきた。日本は昨夏、閣議決定された「子どもの貧困対策法」に基づく大綱に、「保護者の就労支援では家庭で家族が接する時間を確保すること」を盛り込んだが、具体化していない。
水無田さんは、生活のために低賃金で長時間働く現状を問題視する。「ひとり親は時間に余裕がない『時間貧困』に陥りやすい。母ひとりの愛情だけでは、子どもは守れない。育児時間が十分持てる社会保障制度改革が必要だ」と訴える。
「自己責任」社会は、母子家庭の母親は子供のために懸命に働けと言う。でもそのせいで母親は子供をよく見てあげる余裕が無くなり、子供のSOSをキャッチできなくなってしまう。そうして子供が窮地に追い込まれたり犯罪に巻き込まれたりすると今度は「SOSを発していた息子にもっと関心を持って欲しかった」と母親を責める。
殺された少年のお母さんはただでさえ自責の念にさいなまれてるでしょうに、なぜ事情を知りもしない赤の他人に上から目線で責められなくてはならないのでしょうか。
「自己責任」はどこまでも容赦なく鞭を打ちますね。この被害者をも責める日本独特の風潮は本当に残酷だと思います。
かつてこのエントリ-でこう書いたことがあります。
自力で生きていけない人たちを国や政府は助けるべきだとは思わないと言う人が日本では三人に一人以上もいることがアンケートでわかりました。
日本 38%
アメリカ 28%
イギリス 8%
フランス 8%
ドイツ 7%
中国 9%
インド 8%
日本はなんという生きにくい国なのでしょうか。
「人様に迷惑をかけるな」という日本的な美徳は、度が過ぎれば他人に冷酷であることの裏返しでもあります。
子供の貧困、なかんずく母子家庭の貧困は深刻です。
でもそれがいっこうに改善されない根底には、「困った人間を税金で助ける必要は無い、自己責任だ」の風潮もあると思います。
もしも殺されてしまった少年の家庭が手厚い社会福祉を受けていられたら、お母さんにも余裕が出来てSOSをキャッチすることができたかもしれません。そう思うと、この悲劇的な事件は自己責任社会の結果の一つと言えるかもしれません。
貧困は犯罪者を生む背景のひとつにあげられます。何故加害者が犯罪に走ったか、その情状に加害者が置かれていた貧困をとりあげると、「貧困でも立派に生きている人もいる」との反論が必ず帰ってきます。これも一種の自己責任論でしょう。そして、必ずこういう言葉もついてきます。
「被害者の人権より加害者の人権を大事にするのか」
しかし、本当に「被害者の人権を大事にしろ」というならば、今回の事件から得られる教訓は、子供を窮地に陥らせない、被害者にしないためにも「自力で生きていけない人たちを国や政府は助けるべきだとは思わない」という自己責任論を日本人は考え直すべきだ、ということだと思うのです。
<追記>
こちらも併せてお読みください
井上伸ーYahoo!個人ニュース
●シングルマザー襲う世界最悪の賃金差別、子どもと向きあえない時間的貧困、働くと英の10倍に上がる貧困率
http://bylines.news.yahoo.co.jp/inoueshin/20150306-00043605/
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