【先ず隗より始めよ】慰安婦問題を論じたかったら、まず学術的な態度を身につける事から始めましょう(荻上チキ Session 22「資料から読み解く慰安婦問題」のご案内)
- 2015/03/04
- 06:00
警察も街宣右翼には迷惑防止条例を適用しないというえこひいきをしてますから、ほんと迷惑です。
この「朝日が慰安婦を捏造した」というのは「事実と異なる勝手な思い込み」=妄想の類に入ります。
そもそも慰安婦問題にはどういう資料があり、どういう検証が進んでいるのかについて、彼らが触れてるのを聞いたことがありません。
「朝日新聞ガー、吉田証言ガー」というのは、彼らが未だに慰安婦問題の学術研究について全く無知な証拠です。そんな人達が公共の場でいい加減なデマを拡散するのは本当に辞めて欲しい。
せめてこれを聞いてから出直せ、と言いたいです。
●荻上チキ Session 22 2015年2月25日(水)「資料から読み解く慰安婦問題」(探究モード)
http://www.tbsradio.jp/ss954/2015/02/2015225-1.html
こちらでポッドキャストでTBSラジオで放送された歴史学者・林博史教授の話が聞けます。
youtubeではこちらをどうぞ
この番組の林教授のお話から、ほんの一部を抜粋しましょう。
慰安婦問題については、93年8月の河野談話が発表されるまでに400点あまりの日本軍、警察、外務省、その他の国の公文書が、河野談話以降昨年までに529点の公文書が見つかっています。慰安婦、慰安所に関する公文書です。
「慰安婦は朝日新聞の捏造、吉田証言ガー」と言ってる人は、これら1000点近い公文書資料の存在を全部スルーし、あたかも吉田証言だけが慰安婦の根拠みたいに思ってるようです。
また、これら公文書の他に、中国や東南アジアに行っていた日本軍兵士達、日本の商社員などが書いた慰安婦、慰安所に関する回想録も1000点以上、その他慰安所に関わった人達の証言も膨大にあります。
と、ここでいつもの決まり文句「証言は証拠にならない」が聞こえてきそうですね
なので、およそ歴史を研究するときの一般論として、歴史研究者は資料の検証をどのように行うのかついて林教授の解説をまとめてみました。勉強しましょう。
(慰安婦問題の検証に限らず)歴史学会では常識になってることだが、文書と個人の証言、どちらに資料的価値があるかというと差はない
文書は誰かが証言したことを書き留めれば「文書」になるのだし、政府が作る文書では政府機関の悪事についてはまず書かず、合法を装うように書くものである。政府が作ったからと行って事実とは限らないのであって、やはり文書の裏を読み取る必要がある。
あらゆる文書、あらゆる証言というのは作り手のなんらかのバイアスの視点が入ってくるので、様々な他の文書や証言ひとつひとつを吟味していく。その吟味の中で同じような事で複数の証言があれば、またはそこに文書も加われば、「こういう風なことが起きたんだな」とわかってくる。
同じ出来事でも立場の違い(軍人と慰安婦のように)によって全く違う理解の仕方をする、それが両方、対になって証言が出てくれば、より事実がハッキリする
文書や証言は一つ一つ検討して(「資料批判」という言い方をする)、あまりにも一つの証言だけ、一つの文書だけが突出してるような場合、周りの状況からするとあまり合理的に説明出来ないような場合は、事実の認定は留保する。
逆に、複数のものがあれば、おそらくこれはこういう事があったと合理的に説明出来るから、そういう事実はあったんだろう、ということになる。
だから、必ずしも文書が信用できて証言が信用できないということはない。
国家とか官僚組織とか知識人は文書に残せるが、一般の人々、特に戦前であれば女性はろくに教育を受けてない場合も多いので文字で書けなかったりする。ではそういう人々の体験をいかに残すかと言えば、「語り」しかない。それを「証言だから信用できない」となると権力を持っていない側、差別を受けている側の歴史は全部消え去ることになる
証言と文書、どちらが大事か、ではなくて、一つ一つ聞き取っていき、色んな複数のものを照合しながら事実を確定していくと言う作業をしないといけない
これが歴史学全般においての検証のあり方です(慰安婦問題に限ったことではありません)
こうした検証をしたとき、吉田証言は状況から言っても突出しているし、当時の植民地支配のやり方から言ってもちょっと考えにくいものでした。なので歴史研究者は吉田証言を「信用性が乏しい」、「歴史の信頼できる資料としては使えない」として外していたのです。
慰安婦問題では吉田証言をもとにした研究はありません。河野談話でも吉田証言を退けています。
ですから「慰安婦問題は吉田証言という虚偽の証言を使って朝日が捏造した」という言い分は全く成り立たないのです。
とういわけで、「朝日の捏造ガー、吉田証言ガー」厨の街宣右翼は黙ってお帰り下さい
また、「朝日が慰安婦問題をでっちあげたことにより、日本国民の名誉が毀損された」と提訴した原告団の方々、その請求には理由がありませんね。
お疲れ様でした。
現在歴史資料として使われている証言は、皆、上のような「資料批判」という検証を経て歴史資料としての価値があると判断されたものばかりですから、それに対して「証言だから証拠価値はない」は、非科学的で根拠のないイチャモンでしかありません。
こういうイチャモンはブーメランになって自分に返ってくるので、あまりやらない方がいいと思います。
以前も書きましたが、「慰安婦問題は捏造だ」と言いたがる人々が大好きな通州事件も中国のチベット弾圧も、その残酷な状況は「証言」によって伝えられたわけです。「証言だから証拠価値はない」のならば、通州事件も中国のチベット弾圧も捏造だってことになりかねませんよ(苦笑)
①歴史的資料の読み解き方。学問的な検証はこうするのだ、という基本をちゃんと押さえること、
②そして歴史学者が全く見向きもしてない朝日新聞の吉田証言に粘着してないで、既に現存する1000点あまりの公文書等の学術資料にちゃんと目を通すこと
慰安婦問題のような歴史問題、人権問題を論ずるには、まずはこうした基本的な学術態度を身につける必要が在ります。
それがなければ議論に加わる資格はない、と言っていいでしょう 【先ず隗より始めよ】です。
安倍政権をはじめとする慰安婦問題を否定したい人々は、大日本帝国を肯定したくてたまらないのででっち上げだという結論が先にありきですから、学術的な態度を決してとろうとはしません。
歴史歪曲主義は学問に対して非常に不誠実だということが端的に表れていますね。
それから、慰安婦問題を日本と韓国の国家間の政治対立と捉えるのは間違っています。
慰安所は当時日本が占領した場所で行われていました。韓国だけでなく、日本人、台湾人、中国人、東南アジア、太平洋の島々などでも広く被害があります。
よって、慰安婦問題は日韓の国家間の政治対立でなく、広く女性の人権問題だときちんと認識すべきものです。
では、さっそく林教授の「資料から読み解く慰安婦問題」をお聞き下さい。わかりやすくためになりますよ。
TBSはこれをラジオだけでなくテレビ放映もしてくれると嬉しいです。検討してくれないでしょうか。
もし放映するとなったら、安倍首相が昔NHKの慰安婦番組を改変しに圧力をかけたように、今度はTBSにお邪魔するかも知れませんが(笑)
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