現憲法への明白な敵意～福井市「ピースアート展 憲法と平和」展示会での憲法条文の撤去

現憲法への嫌悪もここまで来たかという嘆息の出るニュースです。

◆福井新聞

「政治色強い」と絵画作品撤去　アオッサ管理会社、県の注意応じ
（2013年5月1日午前7時07分）
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/society/42163.html

　福井市のアオッサで開かれている憲法をテーマにした展示会で、絵の具などで条文を書いた作品が「政治色が強く思想的だ」などとして、管理会社に一部撤去を求められ、主催者が応じていたことが３０日分かった。

　展示会は「ピースアート展　憲法と平和」で２９日に始まった。福井市で創作に取り組む河合良信さん（３１）ら、県内の７人が１階の共有スペース「アトリウム」に絵画や写真を並べている。

　撤去を求められたのは河合さんの作品。９枚の半紙に戦争放棄をうたった９条や改正手続きを記した９６条などを書き出し、絵画の周囲に配した。色や書体を変え、文字で円を描いたりイラストを添えるなどしていた。

　河合さんによると展示初日の午後、管理会社の統括責任者が「政治的な内容で気分を害する人もいる」と撤去を要請。河合さんらは「憲法を知ってもらうことは政治的なことではない」と主張したが聞き入れられず、展示を継続するために応じたという。

　河合さんは「県内アーティストの絵画などを展示」する旨の使用届を提出していた。統括責任者は「展示の多くを条文が占め、見た限り政治色が強く思想的と感じた。美術館などと違い、展示は施設の活性化に役立つことが大前提。条文があのように張り出されると分かっていれば、許可しなかった」としている。

　アオッサは県や福井市などで管理組合をつくり、共有部分をこの管理会社に運営委託している。県は４月２３日の管理運営協議会で展示を把握し、具体的な内容を確認するよう管理会社に注意喚起していた。県財産・事務管理課は「使用届だけでは内容が分からないことから（注意喚起は）通常の対応。今回は、商業施設も入った複合ビルということも踏まえた担当者の判断で、尊重したい」としている。

　河合さんは作品の構成を替え、６日の会期いっぱいまで展示を続けるとしている。

「ピースアート展　憲法と平和」のHPはこちらです。
http://future.jpn.org/fukui/peaceaction/?p=1731

そもそも「ピースアート展　憲法と平和」という展示会を許可しといて憲法の条文出すなって、いくらなんでも意味不明なんですけど？？
まるで絵画展を開くのを許可しておきながら絵画を飾るな、といってるようなもの、わけがわかりません。
「政治的な内容で気分を害する人もいる」なんてクレームつける位なら、何故この展示会自体を許可したんでしょうか？？？憲法の条文の展示を撤去せよというのは明らかに「表現の自由」の侵害です。

そして、県はこの管理会社の判断を「尊重したい」と言っている事から、県も「表現の自由」を侵害していると言えるのです。

全く意味不明ないちゃもんをつけた背景には、現憲法に対する潜在的な敵視があると思われます。
どうやらこの管理会社や県は自国の憲法の条文を見たら「気分を害する」ようですね。

言うまでもないことですが、私たちの国の営みや国民生活は、憲法という土台の上で営まれています。
ですから現憲法のことを知ることは、今ある自分たちの暮らしや社会を知ることであり、むしろ政治性などないといってもいいくらいなのです。
マイミクさんが指摘してらしたのですが、もしも憲法の条文展示が「政治色が強く思想的」というのなら、六法は政治書・思想書なのですか？
今の時季、憲法の条文全てを必死になって暗記しようとしている司法試験・予備試験受験生は、政治活動・思想活動をやっていることになるのですか？
いや、驚くほかありません。

「政治的、思想的」というなら、我が国が現に寄って立つ基本原理である憲法の条文を撤去せよというほうがよほど「政治的、思想的」です。今の国のあり方や国民生活を支える基礎的な価値観、土台の否定という思想なのですから、撤去はまさに思想統制です。
この憲法への嫌悪は残念ながら県も共有していると見えます。


また、政治的な内容は人の気分を害するから公の場では極力控えるべきという言い分を何の疑問もなく主張していますが、これって極めて日本的発想ですね。日本では欧米と違ってデモやストそれ自体が白眼視されがちなのですが、それはこういう発想があるからだと思います

余談になりますが、これは教育現場にも言えることです。
現憲法に沿った学習を深め、それを通じて社会について考えるという学習を「政治的」として忌避する傾向にあります。
そのくせ、現憲法に反するような日の丸君が代を強制が平気でおこなうのですが、これは「政治的ではない」とでもいうでしょうか？
それってあまりにご都合主義というものです。
「政治的だから気分を害する人もいる」ことを考慮しろというなら、どうして「日の丸君が代の強制は政治的だから気分を害する」人のことは一切考慮してもらえないんでしょうか？

以前こちらで、日本が差別表現を禁止する法を制定しない理由として、日本政府は以下のように述べていることをご紹介しました。

表現の自由は、個人の人格的尊厳そのものにかかわる人権であるとともに、国民の政治参加の不可欠の前提をなす権利であり、基本的人権の中でも重要な人権である。かかる表現の自由の重要性から、我が国憲法上、表現行為等の制約に当たっては過度に広範な制約は認められず、他人の基本的人権との相互調整を図る場合であっても、その制約の必要性、合理性が厳しく要求される。

政府によれば、日本では「差別する自由」まで許容されるほど、憲法で「表現の自由」が非常に保護されているはずなのです。
しかし実際は、その憲法の条文を「憲法と平和」をモチーフにした展示会で展示する「表現の自由」すらないのが現実です。
そして、いつも折れさせられるのは「現憲法側」ばかりであることも、憂わざるをえません。
日本に本当の「表現の自由」はありません。

国民の権利を守るために権力を縛る憲法を、権力はかくも嫌っており、なんとかして退けたいと熱望していることをひしひし感じます。