慰安婦制度が国家による人権侵害だったとしても、国家に損害賠償責任はないのでは

元慰安婦に対する国の責任を否定する論理は次の三段階になっていると思います。
①そもそも「慰安婦制度（＝軍属の慰安婦）」の存在を否定する。
即ち、「慰安婦」と呼ばれる者達は軍属ではなく、いつの時代にもよくいる民間の売春婦に過ぎない、民間の売春業者が商売のため軍の後を追いかけていた（追軍）にすぎない、従って軍や国には何の責任もない、と主張する（by自爆史観者）
②軍属の「慰安婦」の存在は認めるが、当時の法ではそれは違法ではなかった、従って軍や国に責任は無いと主張する。
理由としては
・強制性がない自由売春だった、強制連行の証拠が無い、慰安婦は当時認められていた「公娼」である（by自爆史観者）
・当時は「人道に反する罪」も「奴隷禁止」の国際法は存在しなかったのだから、その後に出来た法で裁くのは刑罰不遡及原則に反する、等々（by自爆史観者、政府）
③軍属の「慰安婦」の存在も認めるしそれが違法だったことも認めるが、現在ではその損害賠償請求は認められない、と主張する（by裁判所、政府、自爆史観者）


そもそも軍属の慰安婦などいなかった、他国と同じように民間の売春婦が商売のために軍を追っかけていっただけ、軍は強制連行なんかしていない、という上の①は、あったことを無かったことにする歴史的事実の否定・歪曲です。これは既に数多くの資料や数々の慰安婦裁判によって完全に崩されたオワコンです。
しかし安倍首相や維新の中山氏を筆頭とするウヨウヨはいまだにオワコンレベルでしつこく食い下がっており、国会でこのレベルで議論される周回遅れの甚だしさに大変な虚しさを覚えます。
いくら頑張ったって国際社会では「ホロコーストはなかった論」同様120％論外として扱われ、軽蔑され反感買うだけなのに・・もうそろそろ事実の歪曲は通用しないことに気づいてほしいものです。

さて、
裁判所は慰安婦の証言通り甚だしい人権侵害の事実は全て真実であり、慰安婦制度は国が行った違法行為であると認定したにもかかわらず、下関判決以外は国には損害賠償責任はない（賠償を行う立法を促す不言はあるが）との判断を下しています。
その根拠は、国家無答責や除斥期間の経過や二国間条約で解決済み、という法理論でした（上の③）
政府はこのほかにもいくつか法的な側面から国家に責任が無い理由を挙げています（上の②）
国連が舞台ではさすがにあったことを無かったことにする事実の歪曲（上の①）はドひんしゅくを買うので、事実を認めた上で法的に責任は無いという構成をとっているのでしょう。
以下にそれをまとめてみました。
（ゲイ・マクドゥーガル報告書とwamから引用です）

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１．慰安婦制度があったという事実は認めるが、それは当時は違法とされていなかったから法的責任は発生していない、とする（上の②）
（ａ）国際刑法の最近の研究成果は、過去の行為に遡及適用できない（「人道に対する罪」は刑罰不遡及の原則に反するというアレ）。
（ｂ）奴隷制犯罪の規定は、「慰安所」によってできた仕組みにそのまま適用できるものではないし、また奴隷制の禁止は、第二次大戦の時点で適用可能な国際法の下での慣習的規範としてはいずれにしても確立してはいなかった。
（ｃ）武力紛争下の強かん行為は、一九○七年のハーグ第四条か付属書〔以下ハーグ陸戦規則〕によっても、あるいは第二次大戦時に有効であった国際法の適用可能な慣習的規範によっても、禁止されていなかった。
（ｄ）いずれにせよ、戦争法規は敵国民に対して日本軍が行った行為にのみ適用されるものであり、したがって、日本国民や第二次大戦当時日本に併合されていた朝鮮半島の住民には適用されない。

２．違法行為だったとしても、それに対する既に責任は消滅している（上の③）
（ａ）除斥期間が経過してしまった。
（ｂ）国際法は国家間の関係を定めた法であるからこれを根拠に個人請求権は認められない
（ｃ）たとえ一旦は賠償請求権が発生していたとしても二国間条約（日韓協定、日中共同声明）で解決済み
（ｄ）国家無答責

これらに対する反論をゲイ・マクドゥーガル報告書の中から主な該当箇所の番号でピックアップしておきましょう。
該当箇所をリンク先でお読みください。

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１．
（ａ）国際刑法の最近の研究成果は、過去の行為に遡及適用できない（「人道に対する罪」は刑罰不遡及の原則に反するというアレ）
←２５、２６、３４
人道に対する罪も奴隷禁止も、既に不文の慣習法として認められていたことを文言にしただけだから不遡及には当たらない。
　あと吉見教授も「従軍慰安婦」p.173～で
『日本は、１９５１年のサンフランシスコ平和条約第１１条で「極東国際軍事裁判並びに日本国内国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受託」している。すなわち、人道に対する罪の定義を受託したことになる（ＩＣＪ報告）。また、ニュルンベルグ国際軍事裁判所条例・極東国際軍事裁判所条例とその判決で認められた国際法の諸原則は、第一回国連総会で全会一致で確認された（阿部論文）。このことは、人道に対する罪によって、１９４５年以前の行為をも問うことの正当性・合法性があることになろう。』
と指摘している。

（ｂ）奴隷制犯罪の規定は、「慰安所」によってできた仕組みにそのまま適用できるものではないし、また奴隷制の禁止は、第二次大戦の時点で適用可能な国際法の下での慣習的規範としてはいずれにしても確立してはいなかった。
←１２～１６

（ｃ）武力紛争下の強かん行為は、一九○七年のハーグ第四条か付属書〔以下ハーグ陸戦規則〕によっても、あるいは第二次大戦時に有効であった国際法の適用可能な慣習的規範によっても、禁止されていなかった。
←１７、２８

（ｄ）いずれにせよ、戦争法規は敵国民に対して日本軍が行った行為にのみ適用されるものであり、したがって、日本国民や第二次大戦当時日本に併合されていた朝鮮半島の住民には適用されない。
←１８，１９，２９，３０

２．
（ａ）除斥期間が経過してしまった
←４０
（ｂ）国際法は国家間の関係を定めた法であるからこれを根拠に個人請求権は認められない
←４２、４３、４４，４５、４６、４７　
そして将校など個人も責任を負う，時効もない←３２，３３，３５

国は、国際法は国家と国家の法であるので、たとえ旧日本軍が国際法違反を行ったとしても、一個人が国際法を用いて請求を行うこと（国際法上の個人請求権）は認められていないと主張した。日本の裁判所もそのような誤った前提に依拠してきた。しかし1907年のハーグ陸戦条約3条（日本も批准）は、交戦国は戦闘員の違法行為が与えた損害はすべて国家が賠償すべきことを義務づけている。原告らは、カルスホーベン専門家証人（女性国際戦犯法廷でも証言）などの専門家の意見に基づいて、この規定が被害者の賠償請求権を確認した規定であると主張している（wamより）

ただ一件慰安婦の勝訴判決をだした下関判決でも立法不作為が新たな不法行為だという構成でした。
国に命じた損害賠償30万は、性奴隷に貶めたことに対しての損害賠償ではなく、性奴隷に貶めた事に対しての損害賠償する立法をしなくてはいけないのにそれを怠ってあらたに人権侵害を為したことに対して30万の賠償を支払え、というもの。
これは、性奴隷に貶めた事に対しての損害賠償は立法を待たなくては無理で、国際法違反をもとに個人が損倍請求はできないという立場に立っていると思われます。
しかし、国内での立法が無くても国際法を根拠に個人が国に対し直接賠償を求めることが出来るというのが国連の見解です。

（ｃ）たとえ一旦は賠償請求権が発生していたとしても二国間条約（日韓協定、日中共同声明）で解決済み
←５３～６２

http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-775.html

http://www.peace-forum.com/houkoku/090120-1.html#より
『2007年4月の中 国人強制連行西松訴訟の最高裁判決が日中共同声明などで個人請求権も消滅したと判 断したことに対して、イタリアの最高裁(破棄院)は独伊条約で伊国民の請求権 を放棄しているにもかかわらず、昨年10月、トスカナ州チビテッラ村民虐殺事件について被害村民の請求権を認め、ドイツ政府に賠償金の支払いを命じる判決 を出したと報告。この判決は重大な国際人道法に違反する行為については国家によって被害者個 人の請求権を制限できないことを示していると述べました。このイタリアの判決に対してドイツ政府は2008年12月、国際司法裁判所 (ICJ)にイタリアを国際法に違反しているとして提訴し、その行方が注目さ れています。』

そんなに日韓条約、日韓協定で解決済みというのなら、その会談時の文書の秘密指定を外して公開すべきだと訴訟を起こされ、文書が開示されつつあります。
http://www.f8.wx301.smilestart.ne.jp/index.html
今の所「日本側は郵便貯金、有価証券、未払い金、恩給など、植民地支配下の法律関係を前提とする支払いのみを想定し、強制動員に対する謝罪や賠償は計算に入れていなかった」（東京新聞）ことが明らかになってきています。

（ｄ）国家無答責
←1947年に国家賠償法が施行されたが、それ以前に公務員が公権力を行使した際に伴う不法行為については、国家は損害賠償責任を負わないとする考え方で、戦前の判例で適用されていた。「慰安婦」裁判や戦後補償の裁判で国は、戦前の行為なので国家無答責の原則が適用されると主張してきた。しかし、この原則は戦前においてもその適用される場面は限定されていた。また、新しい憲法ができたもとでこのような非民主的な原則が用いられるべきかどうかは、現在も裁判で争われている。（wamより）

当時の国家無答責を適用することは、過去国家が行った不法行為で現在も苦しむ人を現在の国家が放置することあり、それは現在の国家があらたな人権侵害をしているのと等しいと私は思います。


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以上、政府や裁判所の国に責任無しとする法的構成に対する反論には納得いくものがあります。
日本の司法が下した法的判断は誤っていたと言えるのではないでしょうか